MPTE第6回基礎技術セミナーの報告

MPTE基礎技術セミナー

第6回基礎技術セミナー報告 今さら聞けないシリーズ"もう一度基本から"

日 時:2023年2月22日(水)

開催方法:Teamsによるリモート開催

参加者:183名

テレビの映像制作現場で活躍されている若手エンジニア・クリエイターの方々を対象に、映像制作の基礎についての基礎技術セミナーを3年ぶりにリモート開催しました。在京民放各社の理事の方々に講師を選出して頂き、民放キー局を代表する豪華な講師陣によるセミナーとなりました。
講義内容はENG・VE・伝送・音声・照明の5つの部門で構成され、広く基礎的な技術知識を学んでいただける良い機会を提供できたと感じています。

 

【1】 ENGの基礎『ドッキリ番組撮影の基礎』
  講師:(株)日テレ・テクニカル・リソーシズ
     コンテンツ戦略部兼制作技術部管理職TP兼ME
     石渡 裕二 様

暗闇での撮影について、以下の2例についてお話いただいた。
① 光が一切ない本当の暗闇での撮影
② 夜間の屋外で月明かり程度の撮影
まず、暗闇を撮影するのに必要な機材として、「赤外線撮影のできるカメラ」
「赤外線ライト」「高感度撮影のできるカメラ」が紹介された。
次に、何故人間の目は暗闇に慣れてくるのか、について錐体細胞と桿体細胞が関係していることが紹介され、真の暗闇を作るための事前準備の具体例が示された。
赤外線に関しては、近赤外線(NIR)780nm~2.5μm、中赤外線(MIR)2.5μm~
4μm、遠赤外線(FIR)4μm~1000μmに分類され、近赤外線を検知するカメラを使用することで、熱源となる物体や生物の撮影が可能となり、サーモグラフカメラは遠赤外線の波長を検知して画像を生成していることが紹介された。
赤外線カメラを利用する際の注意点としては、部屋の壁を黒くしてしまわないこと、材質によって、赤、青、黒の布もグレーに写ってしまう点なども留意する必要があること。その他の注意点としては、ナイトショット機能のついたカメラでノーマルの映像から赤外線に切り替えるタイミングで焦点がぼけること、光が一切入らない状況で現場を明るくするには、赤外線ライトを使うこと。若干でも光が入る場合には、シャッタースピード固定(1/60、1/100)で、ISOコントロールで撮影を行うこと等が紹介された。

 

【2】VEの仕事
 講師:(株)フジテレビジョン 技術局 制作技術統括部
     松田 和樹 様

VEの仕事は大きく2つに大別される。

▪スタジオVE:主にスタジオで情報番組、バラエティ、歌、ドラマなどの番組制作を担当

▪中継VE:主に仮設現場でスポーツ、コンサートなどの番組制作を担当

目立たない存在ではあるが、求められる知識や使用する機材量は制作技術の中でも随一であり、生放送や収録現場ではミス一つが放送事故に直結する責任大のセクションである。
まず、カメラ調整の前に色温度の解説があり色温度変換フィルターの変換表が示された。カメラ調整に関しては、波形モニターの見方、ブラックバランス調整、ホワイトバランス調整、ガンマバランス調整、ホワイトシェーディング調整、フレアバランス調整の具体的な方法が示された。その後、応用編として色温度変換フィルターとの組み合わせによる調整、実際の番組での運用例が紹介された。
最後に、カタールで開催された2022年FIFAワールドカップでのIBCの紹介とフジテレビのユニ取材用設備構築の様子、ホスト映像とフジテレビが撮影したインサート映像がどのような回線を通じて日本まで届けられたか、等が紹介された。

 

【3】伝送技術について
 講師:(株)テレビ朝日 技術局 技術運用センター
     報道・回線技術グループ
     田中 彰一 様

まず、伝送の種類として、①報道番組(ニュース・情報番組)、② スポーツ番組(サッカー・野球)、③制作番組(音楽・バラエティ)があること、具体的な伝送方法として、FPU(Field Pickup Unit)、SNG(Satellite News Gathering)、NTTテレビ中継網、キャリア回線、IP回線が紹介された。
伝送例として、羽鳥慎一モーニングショー新春特大SPの例が南極からのインターネット中継を含めて紹介された。
次に2022FIFAワールドカップの映像伝送が、ユニ中継を含めIBC経由でテレビ朝日まで回線が構築された仕組みが示された。
IP伝送の歴史に関しては、2001年のBフレッツから現在のIP伝送までを辿り、IP伝送の具体例としては、プロレス中継でのアメリカからの使用例が紹介された。その他、海外事例、IP中継の際の注意点なども挙げられた。
最後にクラウドを利用した2022年全英オープンゴルフの映像伝送、セキュリティ対策の重要性、IP伝送の将来と人材確保・育成の必要性ついても触れていただいた。

 

【4】テレビ音声の仕事について
   講師:TBSテレビ メディアテクノロジー局
      制作技術統括部
      中村 全希 様

「テレビ音声の仕事」について、音を取る(収音)、音を調整する(MIX)、音を完パケる(トラックダウン、MA)、インカムや送り返し、マイナスワンなど「音に関わる素材・機材」の管理などを挙げ、テレビの「音」に関する全ての仕事を担当するとの紹介があった。
まずは、マイクについて、仕組み、収音方法、マイクの選定基準、マイクの種類について解説し、実際の街録素材でのマイクの距離による違いの説明があった。
次に音の調整について、スタジオMIX、ドラマMIX、中継MIXについて紹介していただいた。更に、収録番組でのトラックダウンとMAについて実際の素材を使って説明し、その場で作り上げなければならない生放送との違いについても触れられた。
テレビ音声の宿命については、映画とテレビの違いを含め、テレビの音は聞こえていて当たり前で「ながら」視聴や近年の視聴環境の多様化に対応すべく、誰でも「聞こえやすい音」を作ることの重要さについて触れられた。その中でラウドネスの仕組みを理解し、その中で最大限のパフォーマンスを行う重要さを解説された。また、レコード大賞を例にあげ、大型番組における音声の仕事についても紹介いただいた。
最後に音声ミキサーの心得として「現場の音を謙虚に理解し、仲間を信頼し、成長する可能性を信じ、音声の正解を分析」することが大切と語られた。

 

【5】照明技術の基礎について
   講師:(株)テレビ東京 技術局 制作技術センター
      水野 暁夫 様

まずは、ものの見え方について、網膜にあるL錐体とM錐体の足し算で輝度(白黒)、引き算で色(赤/緑、黄/青)が認識され、脳に伝えられ、とりわけ人間が形を見るには輝度情報が重要であることが解説された。そのため「人の心や感情を動かすライティングは、色の変化だけに頼るのではなく、明暗や陰影を大切にして欲しい」と語られた。人物照明に関しては、光の方向性を意識しながらライトを当てることが重要であり、特にスモークを使用した時の背景のライトは足元に明かりを落とした時、本人もセットもきれいに見えることが示された。
次にLED照明に関しては、消費電力は一般的にハロゲン電球の1/7~1/5程度と言われており、LEDスポットライトの寿命は20,000時間、LEDベースライトの寿命は40,000時間と言われていること。LEDカラーシステムは器具によって様々であるため、演色性が大切であること。また、その際基準となるのが、平均演色評価数(Ra)であるが、1965年に発表された演色評価法で、色票のサンプル数も少なく、LEDの評価では不十分なこと。そのため、色の忠実度を正確に評価する方法として色忠実度指数(Rf)が2017年に発表され、テスト光源および参照光源で99枚のテスト色表の色度を計算し、色の見えのシフトとその平均を計算、色の見えの差から色忠実度指数を算出していることが解説された。なお、参照光源の分光放射分布より相関色温度CCTを計算し、決定する。
最後に、XR・バーチャルプロダクション制作において、演色性の課題を解決し、更にはLEDウォ-ルに完全同期するKino Flo Lighting System社のLED照明「MIMIK120」が紹介された。