京都支部 第70回映像技術賞受賞作品上映会&トークイベント 報告

京都支部(支部長:妹尾啓太(東映))では、京都クロスメディア推進戦略拠点(KCROP)との共催、東宝様のご協力により「MPTE AWARDS 2017第70回映像技術賞受賞作品上映会&トークイベント」を下記の通り開催しました。

【上映作品】『怒り』

【ゲ ス ト】中村裕樹氏(照明技師)

【日  時】2018年 4月18日(水)  13:30 ~

【会  場】京都文化博物館 フィルムシアター

【参加人数】約100名(トークイベント:約50名)

©2016年映画「怒り」製作委員会

 
 

MPTE AWARDS 2017・第70回映像技術賞(撮影・照明・録音)受賞作品「怒り」(監督:李相日)の鑑賞と映像技術賞・審査員賞を受賞された照明技師・中村裕樹氏をお招きしてのトークイベントを行いました。

中村氏が「怒り」で光の演出を行うことになった経緯は、前々作の「悪人」とは違うトーンを求める李監督からの要請で、撮影監督の笠松氏とも初めて組むことになったとのことでした。

李監督は、何度もリハーサルを行って芝居を固めていくため、その過程で監督の求めるものや役者の芝居を観察する時間があり、ライティングをシミュレーションしながら芝居に寄り添った照明ができた理想の現場だったということで、色々なシーンでの会心の照明の工夫や苦労したエピソードをお話いただきました。特に照明が重要な役割を果たしている犯人疑惑4名の登場シーンについてそれぞれ詳しく聞くことができました。綾野剛さん演じる直人の登場するシーンでは、迷路のような狭い実際のハッテン場のロケセットでの照明の仕込みについて、広域な雨降らしのシーンで登場する松山ケンイチさんへのライティングの方法、森山未来さん演ずる田中の登場シーンでは、太陽が理想の位置にくる時間を計算し撮影が行われ、広瀬すずさん演じる泉に映る影の大きさや位置などもそれに合わせて計算して光と影を作っていったという舞台裏、犯行現場の玄関先に座る犯人の動きに合わせて強い光りを当てるタイミングなど、会場の皆さんも熱心に聞き入っていました。

また、中村氏お気に入りのシーンは、海辺で犯人手配写真の掲示板の前でたたずんでいる宮﨑あおいさん演じる愛子に後ろから施した水の波光のように揺れる光が、少し渡辺謙さん演じる父親にも及んでいるシーンで、まさに芝居とライティングがマッチし、表情に寄り添ったライティングができたとのことでした。

最後の質疑応答では、ドラマで照明のお仕事をされている方から、雨降らし時の照明をセッティングする場所や、葉っぱの影など動いている印象的な光の作り方についての質問がありました。雨降ふらしでは、ハイライダーや、制作部の協力を得て屋上などなるべく多くの照明をセッティングする場所を確保し、撮影範囲を狭めないようにしたことや、影出し用の葉っぱをいつも用意しており、しかも本物でないときれいに影がでないため、本物の植物を用意していることや、沖縄のシーンでは、揺れる影を作る葉は沖縄の植物を使ったという細部へのこだわりも披露されました。また、編集に携わっている方から、現場での照明とカラーグレーディングについての質問があり、古い考えかもと前置きしつつ、やはりカラーグレーディングで電気的に直しても限界はあり、物理的に現場ですべて作っておく方が良いとの考えを述べられました。特に李監督の脚本には「強烈な夕陽」など光に関する記述もあったので、本当の夕陽狙いで撮影し、陽が沈んでからは、その場でその夕陽に合わせてライトを作って臨んだとのお話でした。

なかなか聞く機会の少ない映画の照明に関するお話を聞くことができた充実した時間となりました。

(幹事:三輪由美子)