東北支部 秋の映像セミナー報告

日 時: 2022年11月3日(木祝) 13:00~16:30

会 場: 学校法人日本コンピュータ学園 東北電子専門学校 視聴覚ホール
     (Teamsウェビナー同時開催)

テーマ:『誰もが、どこからでも、世界発信できる時代に生きる知恵とは?』

 

先月、東北電子専門学校の多大なるご協力を得て、三年ぶりに秋のセミナーを実施することができました。コロナ禍にあり、東北支部としては初めてとなる、オンライン配信も同時開催しました。一部、事務局の不手際から映像や音声が途切れてしまう場面もあったのですが、学生たちが会場設営からカメラ、音声、配信まで全てを、計画、実施して頂いたおかげで、なんとか無事にセミナーを終えることができました。又、当セミナーの意図に賛同し、登壇して頂いたゲストの皆さまには、「地域に根づいて映像発信していく魅力と、その課題」について、貴重なお話しをして頂きました。以下、簡単ではありますが、どういう内容だったのか、概要だけでも知って頂きたくご報告しておきます。

記:東北支部長 百崎満晴

《セミナーテーマ》

『誰もが、どこからでも、世界発信できる時代に生きる知恵とは?』

かつて、映像制作は特定の業者が資金力を持って行うものという位置づけでした。
しかし、昨今の技術革新は、ハイクオリティーな映像作品を、個人でも十分手に入る安価な機材で、撮影から編集、配信までも可能にした。
誰もが、世界中のどこからでも、アイディア一つで勝負できる時代。
地方発信する魅力とともに、映像を生業としていくための知恵を探る。

開催日 2022年11月3日(木祝)(12:30開場)13:00~16:30
開催場所 学校法人日本コンピュータ学園 東北電子専門学校 視聴覚ホール(Teamsウェビナー同時開催)
司会 坂本飛龍 東北電子専門学校 映像放送科2年
   佐々木一生 東北電子専門学校 映像放送科2年
参加人数 会場:学生含む50名ほど
     オンライン参加者:最大11名

 

講演1 「プロに学ぶ民生機器使いこなし術」

講師:浅野 康治郎(NHK・ドキュメンタリーカメラマン)

TVなど放送メディアで使われているカメラの多くは、報道用に特化しており、機能が絞られている分、シンプルな作りで、人間工学的にも優れており、あえて操作ボタンなどを見なくとも、直感的な操作が可能。しかし、イメージセンサーの小ささから、被写界深度は浅くならず、表現力では物足りなさもある。一方、民生カメラの多くは、小型軽量であることから圧倒的な手軽さが魅力です。ただし多くの操作がオート機能に委ねられ、こちらもカメラマンとしては、表現力の乏しさを感じます。そんな中、大判センサーを持ち、被写界深度の浅い一眼デジタルカメラの登場が、一気にその勢力図を変えた感があります。

10年ほど前、CANON EOS 5Dをメイン機で使用し、砂漠で撮影したときは、小型であることを利点にヤジロベエ式の防振装置にのせることで、ステディー効果が安価な形で得られた上、大判センサーの浅い被写界深度で撮影でき、魅力的な映像となった。
又、ゴープロなど超小型のカメラの登場は、これまであり得なかった形での映像を多く演出できるようになった。ボーリング場を舞台にした番組では、ボーリングのボールを追従するカットを、ラジコンカーにカメラを乗せることで実現。ピンの中に仕込むことで、はじき飛ばされる映像など、工夫次第でいろんな映像を捉えることができる。

TVドキュメンタリーの現場は、その多くが一度きりの現場、撮り逃しは許されない。操作のことに気を取られず、取材対象に集中できるためにも、操作性の優れた信頼できるカメラを選びたいのが本音。又、現場では、機材によって待たせたり、威圧感を与えてしまうのは御法度。逆に小さすぎてカメラだと認識されないと、隠し撮りともとられかねず、取材対象や現場の環境次第で、機材選択がより重要になっている。

又、最終的にどこで視聴するものなのか、TVなのか、スマホなのか、映画館のスクリーンなのか。それによって、カメラもレンズも、三脚を使用するかどうかなど、撮影スタイルも変わらざるを得ない。100年以上積み上げてきた映像文法も、時代が変われどやはり基礎として重要であり、興味を持って勉強して欲しい。

一番大切なことは、「なぜ撮るのか、何を撮りたいのか」ということ。そして対象に興味を持って好きになって撮ること。それをどう表現したいか、カメラはあくまで道具に過ぎないということ。撮りたいと思うことがスタート地点。興味を持ち続けることが大事。歳をとると、年々経験を重ねると、慣れてきてしまい、それが実は怖いと思っている。最初は物珍しく思う風景も、毎日見ていたら、普通になってしまう。最初に見た新鮮さが無くなる。新鮮さを持っているうちに撮ってしまいたい。興味をかき立てるようにする、ことが大事かな。

 

講演2 トークセッション「地域に根づくからこそ広がる映像世界がある」

〔登壇者プロフィール〕

高平 大輔(たかひら だいすけ)
映像ディレクター・クリエイティブディレクター

福島県南相馬市出身。ロンドン・東京・仙台を拠点に活動するビジュアルスタジオ「WOW」でキャリアをスタート。東京と仙台でCM・広告を中心に活動していたが、東日本大震災をきっかけに復興に関わるプロジェクトなどに参加。現在はフリーランスとWOW所属の2つのスタンスで、様々なクリエイターと共に東北の新しい可能性を模索中。
関連サイト www.daisuketakahira.com

 

小森 はるか(こもり はるか) 映像作家

瀬尾夏美(画家・作家)とのアートユニットやNOOK(のおく)のメンバーとしても活動している。2011年以降、岩手県陸前高田市や東北各地で、人々の語りと風景の記録から作品制作を続ける。現在は新潟在住。劇場公開作品に『二重のまち/交代地のうたを編む』(2019年/瀬尾夏美と共同監督)、『空に聞く』(2018年)、『息の跡』(2016年)がある。
関連サイト http://nook.or.jp/

 

小川 直人(おがわ なおと)
せんだいメディアテーク学芸員/宮城大学特任准教授

2001年よりせんだいメディアテークで学芸員として映像文化、アーカイブ等の事業に取り組む傍ら、一個人として映画上映や本の編集、大学教育に携わる。東日本大震災後には、DOMMUNE FUKUSHIMA!クルー(2011~2018)、山形国際ドキュメンタリー映画祭・東日本大震災関連特集「ともにある Cinema with Us」コーディネーター(2013~2017)など。

 

〔プロになるということ〕

(小森) 微妙なところですね。頼まれて仕事をするのがとても苦手、というか向いていなくて、やりたいことをどう仕事にしていけるかと、身のこなしを変えてきた。技術的にはずっとアマチュアな感じですけど。やっぱり作品を発表し、それに対して責任を取る、見せ続けていく、作者として、そこに立ち続けるというところで、だいぶプロという自覚を持つようになったかなあと。思います。

(高平) 皆さんと同じく、仙台の専門学校から、当時設立したばかりの映像制作会社に入って、25年あまり、紆余曲折ありながら、映像ディレクターをやってきました。震災後に、東北を中心としたプロジェクトをやりたいと、WOWという会社に所属しながら、副業としてフリーランスでも活動してます。プロとしての自覚は、初めて大学で映像を教える立場になったとき、でしょうか。

〔地方で活動するということ〕

(高平) そもそも地方ってどこか、田舎から出てくると、仙台も東京と同じくらい大きな街。若い頃は、東京への憧れもあり、模範にしていたりしてたんですけど、今は「ここ(仙台・東北)でしか創れないものを創りたい」という気持ちでやっています。もちろん、東京や海外も意識しますし、そこまでシンプルな強い気持ちを通しているか、というと、怪しいところですが、一応、悩みながらもやっています。

 

(小森) 震災ボランティアで陸前高田に入ったので、よそ者としての東北でした。学生時代は漠然と東京で映像関係の仕事をするものと思っていました。東北に来て、震災という共通体験を持っている仲間が、映像だけではなく、いろんな専門を持った人たちにできて、垣根を越えた仕事ができることは大きい。映像を創るなり、見せるということは、一人ではやれない。一緒にやりたいと思ってくれる人と、いろんな人を巻き込んでいく、うまく言えないんですけど、そこに居心地の良さがあります。

 

〔一番やりがいを感じる瞬間はいつか〕

(小森)  私自身は、自分の表現としてというよりは、誰か伝えたい人がいて、それを受け取った者として、また別な人に伝える、その間に入る感覚で制作しているので、全く知らない他者に届いたとか、何か遠くに運ばれていった、実感が持てたときは、うれしい気持ちになります。会えなかった人同士が会えた、という接点に自分が関われた、感覚があったときですかね。

(高平) 僕の場合は、クライアントワークでもあるので、目標、ミッションがあって、販売実績が伸びたとか、集客がうまくいったとか、お客さんの課題が解決すると、映像も含めてそういった仕掛け装置が機能したときは素直に嬉しいですね。

〔生活はできますか?その道は広いですか?〕

(高平) 会社員でもあるので、ある程度、固定給があり、プラス副業という形。家族もいるので、いろいろ計画しながら生きてます。映像の仕事だけで食べていくためには、相応のスキルが求められることもあり、長年そこを考えて行動してきた感じですね。

(小森) 今は、作家活動と合わせて、NOOKという会社で経理を担当し、その収入でぎりぎり、一人で生活するぐらいには成り立っている。映像制作だけで食べていけることが理想かと言うと、あまり自分の技術を売り物にはしたくないという気持ちがあります。映像を商売にしないように、委託されての映像制作はなるべく避けています。 なので、多分、作家活動の収入がなくなったら、その時はその収入を考えずに、多分、別の仕事を探すんだと思うんですけど、現時点では作品制作の収入を中心にしたバランスで食べられているって感じかな。

〔最新技術との向き合い方について〕

(小森) 時代にすごく疎いので、あんまり気にかけていませんが、以前、miniDVのカメラを、とても気に入って使っていたけど、故障もあり、変えざるを得なくなった。今はSonyX70を使っているが、大事にしたいこととして、自分の身体に一番合うカメラ、人と人との関係性の間に置くものとしても、適したものを選びたい。

(高平) 今は、一人で撮影、編集など、何でもやれることが、映像クリエイターの条件のようになっているが、監督がもっと考えなければならない部分は、別にある思う。何の機材で撮るか、レンズなど、様々選択肢が出てくることは、楽しみでもあるが、最低限、知っておくレベルでよく、その機材をいかに目的に合わせて使うかが重要でしょうか。

(小森) 機材が安価、小型軽量化し、お手軽になった一方で、なんでもたくさん撮れてしまう、その制約のなさが、かえって、映像制作の上ではデメリットもあるのではないか、最近は、逆に制約の多いフィルム回帰のような流れもあります。

(小川) 新しい技術を追うことは、テクノロジーを使う業界としては、必然でもあり、新しいものを常に選ぶ、という方もいます。けれども、小森さんの「自分に合うもの」が分かるようになることも、大事なポイントのような気がします。そのための基礎を学ぶところが学校かもしれません。新しいものを次々に、吸収するタイプになるか、自分の一番使い勝手の良い道具はこれだ、とか、表現に合うのはこれだ、とわかって選べる人になると強いかなと、おもしろいものを作る人たちに共通することとして、時々を感じるところです。

 

結びにかえて

今回のセミナーでは「一人で世界発信が出来る時代」と振りかぶりましたが、実はまだまだ、映像分野の多くは、監督がいて、カメラマンがいて、音声、編集、出演者等々、たくさんの人々がかかわってできあがるものです。小森さんが、仙台でNOOKという会社を立ち上げたのも、一緒に何かやりたい、活動したい仲間が集まったからだと聞いています。孤高の世界で創られる作品を否定するものではありませんが、幾人かがかかわって、為し得た時の達成感はまた格別なものがあります。その際に、大切なのはやはり、仲間がいるということです。こんなことをしたい、という手が上がったときに、少しだけ人的ネットワークをサポートしていく立場に、日本映画テレビ技術協会があれば良いと思っております。 (文責:百崎)