大阪支部「第7回基礎技術セミナー」開催報告

■日時:2023年 12月 6日(水)
■場所:株式会社毎日放送 ちゃやまちプラザステージ
■参加人数 :102名

 

大阪支部では、経験1年~3年の放送業界の技術担当者や関心ある学生を対象にした「基礎技術セミナー」を開催しました。昨年に続きリアルでの開催で、会場は事前の申し込みで定員の100名に達するほど盛況でした。今回は、初めて講演資料のペーパーレス化にも取り組み、環境への配慮とコスト削減を行いました。 
各講師とも業界で関心の高いテーマを取り上げ、受講者アンケートからは、「非常に参考になるセミナーばかりで有意義だった」「自身の業務に直結するので大変有益だった」など好評が多数寄せられました。

※動画を視聴するには会員用のIDとパスワードが必要です。

① ロードレース中継〜VE担当の視点から〜
  関⻄テレビ放送(株) 帆足聡一郎 氏

マラソン、駅伝に代表される華やかなロードレース中継。関西でも数多くの大会が開催されますが、VEの視点から見たその舞台裏について、みずからも10回を越える中継を担当した帆足氏が、大阪国際女子マラソンの例を提示しながら、VE担当がどんな考えを基に、プランニングから本番の設営までを詳しく説明しました。

マラソンなどの場合、移動放送車、サイドカー、バイク、ヘリなどを使って、広範囲をカバーする必要があり、しかも大半が無線伝送になります。使う周波数帯域の特性、変調方式、アンテナ特性など基礎知識の詳しい解説がありました。その上で、レース中の映像や音声を出来る限り途切れさせず、演出の狙いやコストについても目標を達成するには、それぞれの移動体に応じて、「画質優先」なのか、途切れさせないための「リンク優先」なのか、目的に応じて送受信機器など電波の組み合わせを選択していく方法論が説明されました。

帆足氏はセミナー4回目の〝常連〟講師としての登壇でしたが、今回もマラソン中継の裏側について図や写真を使った丁寧な解説が好評でした。会場からは「電界が弱い部分をどのように補ったのか」「受信点の数は」など受講者から質問が寄せられ活発な質疑が行われました。

② 報道カメラマンの基礎
  〜現場で何を考える? 機材最新動向は?〜
  NHK大阪放送局 小玉義弘 氏

事件や事故、ドキュメンタリーなど報道の現場で取材するカメラマンは、どんな機材を使い、何を考えながら撮影しているのか。報道の最前線を担う小玉氏がその考え方や必要なマインド、機材の最新動向などを解説しました。
小型IP伝送機器の普及により、ニュース取材の現場ではこの10年でさまざまな変化がもたらされています。映像が視聴者に届くまでの時間が大幅に短縮されたため、放送に影響するリスクやカメラマンの役割の変化について解説がありました。撮影場所や取材対象の確認が不十分なまま放送に出るリスクや、記者やアナウンサーが到着する前に中継リポートをカメラマンが行うなどの現状が紹介され、こうした新たな動きに合わせた対策やリポート訓練などが紹介されました。

一方のドキュメンタリー番組の取材は、長期にわたるため、カメラマンの技術や知識など力量を問われます。シネマカメラといわれるプログレッシブ方式で記録できる撮影機材の説明のほか、人の姿や想いをありのままに記録するには、どうすればよいのか、小玉氏が大切にしている考え方を披露してもらいました。具体的には、取材対象との関係を構築した上で、行動やくせ、しぐさ、声の変化など感情や感情に変わる変化を記録することの大切さを強調しました。実際に担当した番組の経験談を元に、最もこだわった撮影の狙いについて、初心者にも分かりやすく解説しました。
「緊急報道もドキュメンタリーも人間が撮るもの。 価値観がひとりひとり違うので、カメラマンの数だけ物語が生まれる」という若手の背中を押すメッセージで締めくくりました。

③ リモートプロダクションを活用した
  簡易中継を通してIPの便利さを知ろう
  朝日放送テレビ(株) 山下真由 氏

近年、急速に放送設備のIP 化が進み、ネットワークに関連するさまざまな知識が不可⽋になっています。講義では、実際に行った高校野球の簡易中継のリモートプロダクションの事例を通して、IP 化によるメリットや注意点を詳しく説明していただきました。
山下氏からは、映像伝送規格の「NDI」や「SRT」をいかし、高校野球の中継配信を行った際の設備構築について詳細な解説がありました。
ある中継では、現場の球場はカメラマン1名、局内は2名のみの対応で、以前より機材量やケーブル布線量が大幅に減り、事前に設定を構築できれば現場のセッティングは簡単。柔軟な人員配置が可能になり、ローコストでコンテンツをリッチ化できるメリットが紹介されました。一方、使用するパソコンの負荷、インタレース信号の処理、エンコーダーの熱などに起因する映像のかくつき、ノイズ問題にも注意が必要とのことです。リモートでのオペレートがコストダウンにつながるとは限らないことも注意が必要で、最低限守らないといけない点を事前に制作陣とレベル合わせておくことも必要という指摘がありました。

「柔軟に構成が組めるので、案件に合わせて適切なリソースを選択することが必要。まずは触って実感してみることが大切です」山下氏は入社6年目の若手で、今回の講師の中で受講者層に最も近い世代ということもあり、高い関心が寄せられました。

④ ドラマ映像技術の仕事
  〜ルック作成のプロセスに沿って〜
  NHK大阪放送局 原幸介氏

映画やドラマの世界で語られる「ルック」とは、映像の色調やコントラスト、明るさなどさまざまな要素から構成される見た目の雰囲気や印象を表す映像用語とされています。作品の方向性を決める「ルック」を練り上げるのはドラマ制作における映像技術担当の大事な仕事のひとつ。長年ドラマ制作に関わった原氏が、独自に培った「ルック」作りのプロセスを通して、映像技術の仕事を解説しました。

カメラの選定からクランクインに至る過程の中で、どのように「ルック」を構築していくのか。実際の業務フローに沿ってそれぞれのポイントで丁寧に分かりやすい説明がありました。まず、選定したカメラのダイナミックレンジをはじめ、色再現性、S/N、感度など静特性を測定し、カメラ本来の性能を正確に把握します。一方で、演出とも議論を重ね、作品における映像の雰囲気や印象などイメージを共有していきます。その上で、コントラスト、シャドウとハイライトの色、色相、クロマ量などきめ細かく調整し、イメージに近づけながら「ルック」を作成していきます。
具体的にどの編集アプリで「ルック」を作るかは、ワークフローによって選択することが重要で、「ルック」作成後に行うカメラテストでは、カメラが持つ限界値を制作クルー全体で共有することが大切、というアドバイスがありました。
最後に原氏から「ルックの作り方は千差万別で、いろんな方法に挑戦してほしい。まったく想像していなかった映像が撮れることは喜び。やりがいがあり、面白いドラマ制作にぜひチャレンジしてほしい」と若手技術者へのエールで締めくくりました。

阪神とオリックスの関西対決からの阪神38年ぶりの優勝、さらにヴィッセル神戸のJ1優勝など、ことしの関西スポーツ界の活躍は例年になくめざましいものでした。各社ともこうしたイベント対応を終え、一段落したタイミングを調整してセミナー開催となりました。講師のみなさまをはじめ、幹事社である関西テレビ様ならびに事務局の池上通信機様、会場を提供していただきました毎日放送様など、みなさまなど多くの方のご協力で開催することができました。すべてのみなさまに深く感謝申し上げます。
いつの時代も新しい技術が生まれ、私たちはそれを元にしたコンテンツを次々に生みだしていくことが求められます。しかし基礎を学ぶことはどの時代でも欠かすことができません。関西の業界がひとつになり、こうした会を今後も永く継続することで、ひとりでも多くの人財が新たなコンテンツ開発につながることを期待したいと思います。

[ 加藤覚(日本放送協会・大阪)]