MPTE第55回勉強会 報告

テーマ:IP技術を取り入れた放送局設備の導入例
    『RSK山陽放送の「ST 2110」標準規格導入から運用まで』

開催日時:2022年2月16日(水) 15:00~16:00
開催方法:Microsoft Teamsによるリモート開催
講 師:難波 昭一 氏:RSK山陽放送株式会社 技術局制作技術部
    小貝 肇 氏:ソニーマーケティング株式会社
           B2Bプロダクツ&ソリューション本部 B2Bビジネス部
会 費:無料
参加者:87名

 

1.IPシステムの概要について(「ST 2110」標準規格とは?)

【講師:小貝 肇氏】

IPライブ伝送を活用した制作システムは、映像・音声だけでなく、同期・制御を含めてIP/ネットワークを介して構築される点が従来のSDI制作システムと違う点となっている。
例えば、スタジオサブ、中継車のシステムを例にとると、基本構成要素としてINPUT基板の役割がカメラの中に、OUTPUT基板の役割がスイッチャーの中に含まれ、それらがIPルーターを介して接続されるイメージである。
ネットワークの基礎知識としては、OSI参照モデル、IPネットワークを構築する際のキーワードであるL2ネットワーク、L3ネットワーク、VLANついて、またマルチキャストについても解説された。
次にST2110についてIPライブプロダクションの各規格でほぼ共通のUDP/RTPパケット構造である点とSMPTE ST2110ファミリーが紹介された。
また、IPライブ伝送時、SDIと同等のフレーム切り替えを可能とするクリーンスイッチング機能、複数のベンダー機器間の相互運用性を高める制御の規格であるNMOSと世界的な団体の関係性であるJT-NM(Joint Taskforce on Networked Media)が紹介された。
IPライブ伝送を活用したシステムのメリットとして、スケーラビリティ、リモートプロダクション、リモートメンテナンス、リソースシェアなどが紹介された。
最後にSDIシステムの設計とIPシステムの設計の違いについて、段階的な更新の場合も最終形を意識した設計が重要との説明があった。

2.RSK山陽放送の新社屋IPシステム概要について

【講師:難波 昭一氏】

RSK山陽放送は昨年6月に新社屋RSKイノベーティブメディアセンターを建設した。
Aスタジオと報道用のBスタジオ、3室のラジオスタジオを有している。また建物の1階に能舞台を備えた多目的ホールがあり、能公演は元より、TV、ラジオの放送に加え、シンポジウム、美術展なども開催している。
TV放送の設備に関しては全て新社屋に移したため、マスター、スタジオ、回線設備に関しては一斉に更新となった。サブ、回線設備に関しては2018年頃から検討を開始したが、ベースバンドのシステムを導入するか、IPのシステムを導入するか、大きな選択肢として悩ましいところだった。
IPシステムに関しては1から勉強し、先行して導入された局さんの見学に加え、ちょうど良いタイミングでInterBEEの開催があり、実際に機器に触れることができたことで、理解を深めることができた。また、この先10年~15年の使用を考えると、地上波で放送できるかどうか分からないものの、4K/8Kも考慮したとき、IPシステムの導入による拡張性の点から社内の意見が統一できた。
実際に導入した設備に関しては、IPルーターを介して、2つのスタジオ機器の相互利用が容易であり、また選挙の際などには多方面から入ってくる映像のスイッチングも容易にでき、CGテロッパーの融通も可能となった。
その後、実際に導入された設備の写真を紹介いただきながら、ラック本数やケーブルの本数が削減された実例が説明された。
遅延に関してはどうしても発生するが、半年ほどで誰も何も言わなくなった。
リモートメンテナンスに関してはバージョンアップを含め、大変助かっている。
以上、RSK山陽放送の新社屋に導入されたIPシステムついてご説明いただいた。