京都支部 第72回映像技術賞受賞作品上映会&トークイベント 報告


上映作品:『泣き虫しょったんの奇跡』
日  時:2020年2月14日(金)13:30~17:00
会  場:京都文化博物館 フィルムシアター
参加人数:70名(トークイベント:45名)
共  催:一般社団法人日本映画テレビ技術協会 京都支部
     京都府京都文化博物館
協  力:東京テアトル株式会社
     合同会社グラファス

 

編集技師 村上 雅樹氏

京都支部(支部長:妹尾啓太(東映))では、京都府京都文化博物館との共催、東京テアトル株式会社様、合同会社グラファス様のご協力により「MPTE AWARDS 2019第72回映像技術賞受賞作品上映会&トークイベント」を開催しました。今回は『泣き虫しょったんの奇跡』の編集で同賞を受賞した編集技師・村上雅樹氏にお話を伺いました。

最初に司会より受賞理由「同じ室内で対局する場面が続くが、それを気にさせない演出と撮影の工夫を見事に汲み上げ編集が上手くまとめている。制限された狭い空間での厳しい展開を、音の入りも考慮し、編集を意識させない編集が見事であった。将棋を知らずとも難なく物語に入りこめ、感情の流れをスムーズに盛り上げた技量は特出している。作品全体の情緒にマッチした優しく丁寧な編集力は独特で、爽やかなサクセスストーリーを牽引している。」が紹介された後、村上さんからその見事な編集の舞台裏のお話を聞くことができました。

まず、30時間以上あった素材を2時間7分に仕上げたことについて、具体的なシーンを取り上げて、捨てられたカットや理由などについてお話をして頂きました。例えば、父親がランニングにでかけるシーンの後には実際に車に轢かれるシーンも撮っているが、編集では使わず、主人公のしょったんが病院に行って亡くなった父と対面するという繋ぎにしたことや、妻夫木さん演ずる奨励会の仲間棋士が重圧で精神的に追い込まれる描写なども映画で観るシーン以上に素材はあったが、対決の短いシーンと喫煙所でのしょったんとの短い会話で分かるよう編集しているとのことでした。

豊田監督はどのシーンも長く撮るとのことで、例えば、仲間たちとカラオケで歌っているシーンはフルコーラス3回も歌っている撮影素材があったなど色々なエピソードを聞くことができ、そうした膨大な素材から、役者さんがいい演技をしている一番いいカットを選んでいることが分かりました。
また、編集技師の仕事に関する話題では、村上氏は現場には行かないようにしているとのことでした。現場を見ると、時間をかけて撮ったシーンやとても良い照明のシーンなど現場での良い要素に影響されてしまうため、判断は編集室ですることに徹し、ラッシュや試写などで監督をはじめ各パートの方に見て頂く時は、外した理由は納得してもらっているとの言葉に村上氏の編集の仕事への自負を感じました。

質疑応答の時間には、「監督との意見の違う場合どうする?」や「編集から現場にこのシーンを追加で撮ってと頼むことはあるか?」や「原作がある場合、原作も読むのか?」等々たくさんの方から多くの質問が出て、一つ一つ丁寧にお応え頂き、参加者は編集という仕事をより深く理解することができたと思います。

また、主役クラスの役者さんがたくさん出演しているのは豊田監督の作品に出演したい役者さんが多いというお話や、オープニングの将棋の駒を指す手は、瀬川晶司氏と松田氏の両方で撮って、瀬川氏の方が選ばれ、エンディングは豊田監督の手でしたという裏話など映画自体の裏話も色々と聞くことができました。

最後に、間もなく公開される、村上氏が編集に携わったドキュメンタリー映画「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」の内容紹介や編集した素材のお話とともに、特別に予告編の上映もして頂きました。

なかなか聞く機会の少ない映画の編集に関するお話を聞くことができ、充実した時間となりました。

(京都支部幹事 三輪由美子/(株)ツクリエ)