大阪支部 第5回基礎技術セミナー報告

■日時:2019年6月24日(月)
■場所:毎日放送本社 ちゃぷらステージ
■参加人数: 160名

 
■開催報告

松山尚路理事挨拶

満員以上となった会場
 

大阪支部では、毎年恒例となった基礎技術セミナーを6月24日に毎日放送本社1階ちゃぷらステージにて開催しました。
本セミナーは、「プロのための初めの一歩!まずは知りたい基本の知識!」と題し、放送業界に関心のある学生や経験1~3年程度の皆様を中心に、会場満席以上の160名の方にご参加を頂き盛況に終えることができました。
まず、セミナー内容ですが、映像、音声、照明、ポスプロCG、ENGドキュメンタリー系など様々な分野から、今話題の興味ある内容を大阪支部で検討しました。専門的な内容まで多くの提案がありましたが、基礎技術のコンセプトから、専門的な深い内容は別途、MPTE勉強会などで開催することにし、今回は以下の4セミナーを大阪支部会員各社のご協力で行いました。なお、詳細に関しましては、本稿、講師の皆様のご報告内容をご確認ください。

◆ドローン撮影の基礎

講師:関西テレビ放送(株) 
栗山和久氏 ドローンの仕組みや撮影手法、必要な技能や知っておくべき法令について、放送で使用した事例をもとに解説。

◆テレビ音声制作の基礎

講師:(株)ミリカ・ミュージック 大川宏明氏
テレビ番組制作における音声担当業務を具体的に紹介し、テレビ音声制作の基礎を解説。

◆テクニカルディレクターの基礎

~知っておきたいデジタルアセットマネジメント~
講師:(株)IMAGICA Lab. 保木明元氏
4K放送・配信の納品までの制作フロー全般や、撮影所での映画・ドラマ制作の基礎技術をテクニカルディレクターの視点から解説。

◆ドラマ制作技術の基礎

講師:日本放送協会 平野拓也氏
大河ドラマや朝ドラの制作事例から、ドラマ制作の基礎技術や様々な撮影手法について解説。

セミナーは、図示、写真例を多く取り入れた興味深い資料の他、実機を持ち込んでのセミナーもあり、経験豊富な講師の皆様からの丁寧な分かりやすい内容で、熱い思いが伝わりました。参加者としては、放送業界に関心のある若手の方に多く参加頂き、最後まで講師の熱いお話に関心を寄せていました。本稿、アンケート結果を見ましても、ほとんどの方が参考になったとの回答を頂きました。また、「具体的で興味のある分野の基礎を聴くことができ、短時間で知りたい情報をたくさん教えて頂いた。参考になるので、来年も是非やってほしい。」などの声を多く頂き、大阪支部一同、感謝するとともに、セミナーを大阪で開催する意義を大いに感じた1日でした。実は、昨年の第4回開催は、6月18日を予定しましたが、大阪北部地震が発生し中止を余儀なくされました。今年の18日の同日には、新潟で地震が発生しており、因果関係などと、昨年を思い出してしまいます。昨今、自然災害は大きな問題となっていることから、これらを情報発信するための一つの技術としても、基礎技術セミナーや勉強会などの開催の必要性を感じております。皆様には、取り上げてほしいセミナー内容等がありましたら、ご一報頂ければ検討させて頂きます。よろしくお願いいたします。

今回、会場を提供して頂きました毎日放送様をはじめ、講師の皆様、足をお運び頂きました参加者の皆様を含め、多くの方のご協力で開催することができました。全ての皆様に深く感謝申し上げます。なお、基礎技術セミナーは今後も継続して行きまので、皆様のご参加をお待ちしております。
今回のセミナー内容については、協会ホームページで動画配信(権利問題等に関わる内容は部分割愛する場合があります)を行います。「見逃した」、「もう一度聞きたい」、「他の方にも聞かせたい」などの声にも応えております。但し、協会会員である条件が必要となりますが、この他も会員のメリットもありますので、詳しくは協会ホームページをご覧頂ければ幸いです。

松山 尚路(テレビ大阪 執行役員 技術局長、当協会理事)

※動画、各資料を表示するには会員用のIDとパスワードが必要です。

■ドローン撮影の基礎「災害報道におけるドローンの活用について」

栗山 和久氏(くりやま・かずひさ)<関西テレビ放送 放送技術局技術推進部 専門部長>

ここでは、私がドローンの導入を進めるきっかけになった災害報道についてお話ししたいと思います。東日本大震災が発生した2011年3月11日、報道技術担当だった私は当日の16時に本社を出発し、長野から新潟、山形、秋田を経由して翌日の14時頃に内陸部から岩手県の陸前高田市に入りました。到着してすぐに山の斜面から集落を見下ろす位置にカメラを設置し、多数の民家や車が川の上流に押し上げられている様子を可搬型の衛星伝送装置で伝送しました。ところが映像を見た中継本部からはさらに甚大な被害場所があると指摘され、戸惑いました。後でわかったことですが、中継場所からほんの数百メートル先で市役所を含む市街地が全面的に被災していたのです。目の前にあった高さ40mほどの小山で視界が遮られた上に、瓦礫で進むことができず、我々はその状況を把握できませんでした。もしこのときドローンがあれば、数分のフライトで周囲の地理を把握し、町の中心部が撮影できる場所に移動していたでしょう。
その日は釜石市まで北上したところで車中泊し、発災から2日後に次の目的地である大槌町からテレビ局として初めて生中継を行いましたが、機材ケースや車両の天板の上からでは被災地の全貌を伝えきれず、大変もどかしい思いをしました。また中継直後に津波警報が発令され、自衛隊の指示でやむを得ず取材車を放置して近くの山に駆け上がることもありました。ドローンがあれば上空からの映像で被害の規模を明確に伝えることができたでしょうし、余震が起きた際の避難路をあらかじめ把握することで、中継班自身の安全を確保することにもつながったと思います。(写真参照)
今回のセミナーでお話ししたように、ここ数年でドローンが普及し、災害報道にドローンが活用されることが増えました。被災地ではドローンや取材ヘリだけでなく、ドクターヘリや警察、消防、自衛隊などメディア以外の航空機が飛び交う上に、将来は医薬品などの「物流ドローン」の実用化も予想されます。国土交通省は今年の4月に無人航空機や航空機の運航者が飛行情報を共有できるオンラインサービスを開始していますが、これらの新たなシステムを活用するだけでなく、機材の保守や正確な操縦を行う訓練を日常的に実施することが、今後も災害報道にドローンを活用する上で最も大事なことだと思います。

写真1機材ケースを踏み台にして生中継を行う筆者

写真2 取材車の天板上から撮影した被災状況
 

※写真1,2とも2011年3月13日12時頃、岩手県上閉伊郡大槌町で撮影

■テレビ音声制作の基礎

大川 宏明氏(おおかわ・ひろあき)<ミリカ・ミュージック 取締役>

テレビをつけると音が聞こえてきます。そこには様々な番組があります。私たちはその番組の演出意図が視聴者にうまく伝わるように番組を制作しています。そのためにはある程度の技術・知識が必要になります。そして必要な技術・知識は多岐多様にわたります。番組制作のみならず、そこに付随した連絡系統の構築やそこにいたるまでの機材の選定、大きくはスタジオや中継車の設計なども考えなくてはなりません。連絡系統では誰と誰がどういった情報をやり取りするかということを理解する必要がありますし、機材の選定ではより確実により効率的に番組を制作するということを考慮する必要があります。今回のセミナーでは音声制作の入口となるマイクロホンの選定とそのセッティングについてお話をさせていただきました。
マイクロホンを選定するにあたって番組を制作する過程を考えてみます。まず番組の内容を確認します。制作する場所はどこか?出演者は何人か?どういったキャラクターの方が出演されるのか?出演者の位置関係はどうか?どのような動きがあるか?などなど。それぞれのシチュエーションに応じて番組内容を表現するために適したマイクロホンを選定しなくてはなりません。ではそのマイクロホンはどういう理由で選定するのか?
最近はインターネットで調べればたいていのことはわかります。マイクの種類や特性、構造にいたるまで、その気になればかなりの情報が得られます。そのような状況ですので、セミナーではわざわざお時間を割いてご参加いただくみなさんに自分で調べればわかるようなことの説明はできるだけ避けてインターネットであまり見ないような情報を出せないか、ということを心がけました。その結果、私自身が経験したことを感覚的にとらえたことをお話しさせていただくことにしました。
登壇に与えられた時間は1時間。資料を作成しながら、この時間をもたせることができるのかどうかまったく自信がありませんでした。そのため資料を少なめにして質疑応答で時間をもたせればいいか、とのんびり構えることに。
そして、当日。どうせ時間に余裕があるだろうと思ってゆっくり話を始めてふと時計をみると30分経過。30分!?まだ予定の4分の1ぐらいしか進んでないぞ!!!

焦りました。そこからお話したいこと、飛ばしてもいいところを頭の中で整理しながら早口でお話することに・・・1時間って意外と短いんですね。
そんなこんなで持ち時間をオーバーして終了。番組制作におけるマイクロホン選定のよりどころが少しでも伝わっていれば幸いですが、かなりかけ足になり一方的なご説明となってしまったことは本当に反省しています。せっかくお越しいただいたみなさまに申し訳ないことをしてしまいました。紙面をお借りしてお詫び申し上げます。幸い九州放送機器展でもお話をさせていただく機会をいただきましたので、その際はみなさんにご迷惑をおかけしないよう気をつけます。
今回はマイクロホン選定のお話に限定しましたが、ほかの制作技術と同じく音声技術は本当に奥が深いものです。フェーダーの動きの先に何万人という視聴者につながっている。ちょっとした指先の動きで人が感動したり、笑ったり、泣いたり・・・
そんなことを考えると本当におもしろい仕事だと思います。

■テクニカルディレクターの基礎「知っておきたいデジタルアセットマネジメント」

保木 明元氏(ほうき・あきもと) <IMAGICA Lab.テクニカルディレクター>

今回は「テクニカルディレクターの役割」というテーマで講演させていただきました。こういった肩書ですが、「映像技術」や「ポストプロダクションスーパーバイザー」などとも呼ばれ、制作環境や関わっている作品などによって役割も様々です。
弊社は京都地区でもポストプロダクション業務を展開しており、太秦で制作される時代劇の映画・ドラマ作品に数多く関わっています。私の場合、それらの作品における編集、CG/VFX、仕上げまで一連のワークフローの提案を「テクニカルディレクター」という肩書で担当しています。時代劇は近年までフィルムで撮影されていました。時代劇の独特なルックや表現は、フィルムで培ったものですが、デジタルになった今でもその表現をどのような手段で引き継いで行くべきか。それぞれの作品に対し「最適なフローの構築」を日々研究しながら提案しています。
セミナーでは、4K、HDRといった新しい技術への取り組みや、「ワークフローの構築」に必要とされる技術・知識の一つとして、基本的な映像に関わる数値や用語。映像素材のフォーマットと映像を映すデバイスへの意識の持ち方について説明しました。技術の進歩や視聴環境の変化で、作り手側と見る側の関係が近づいてきました。多様化する媒体や映像メディアに対応し、最適な視聴環境で映像を提供することが作り手側に求められています。放送、デジタルシネマ、配信などの各媒体の規格は、最終的な納品フォーマットを「整理」するために重要ですが、それらの特性を理解し、より効果的でクリエイティブな映像制作につなげていくことも重要になると考えています。私の話が、若い技術スタッフの方々がすぐれた映像を目指すだけではなく、その先を考えるきっかけになればと思っています。
映像を取り巻く環境は、テクノロジーの進化とともに大きく変わっています。「仕事」として映像に向き合う私たちにとって、変化によりアプローチが多様化したことは、映像表現を追求する上でポジティブにとらえるべきだと考えています。映像作品が「自由」なものであるのと同様に、映像制作の手法も「自由」になるべきでしょう。

(参考資料)

■ドラマ制作技術の基礎

平野 拓也氏(ひらの・たくや)<NHK大阪拠点放送局技術部 副部長>

●はじめに

ドラマの制作スタッフは番組責任者のプロデューサーを筆頭に、演出、美術、技術など総勢100名に上る。各担務ごとに非常に細かく分業化されているが、それぞれのスタッフが台本をもとにイメージを膨らませ専門性を活かしたアイディアを持ち寄って、役者の芝居と相まって視聴者の感情を揺さぶる作品を作り上げていくのがドラマ制作である。

●技術スタッフの役割

◇TD(テクニカルディレクター)
技術のまとめ役であり、スケジュール調整や安全管理などの技術チーム全体のマネイジメントを担当。スタジオ収録では、スイッチャーという役割を担っていて、カット割りをもとに台詞や役者の動きに合わせて5台のカメラを切り替える。

◇撮影
朝ドラでは4人のカメラマンがチームとなり、多角的に芝居を見つめ、感情の起伏を丁寧に描き、芝居の喜怒哀楽をサイズやアングルで強調し、レールやクレーンといった特殊機材を駆使して、印象に残る映像で作品の世界感を豊かにする。

◇照明
映像をよりリアルに、よりドラマチックに仕上げる。
単純に人やモノにライトを当てて明るくするのではなく、シーンの内容や時間帯に合わせて、明かりと陰影でその空間を演出する。

◇VE(ビデオエンジニア)
使用する複数台のカメラのトーンを合わせ、映像を調整し、世界観を創り放送に適した映像を管理する。

◇音声
役者のセリフや息遣いを的確に収音し、セリフがない場合でも役者の足音や物音など様々な音の素材収録を行う。ミキサーはこれらの音をアレンジし、効果音や音楽とミックスさせて聞き易い音を創る。

●ドラマ撮影の基礎

ドラマの撮影は何も特別なものでない。撮影そのものの考え方は、ドキュメンタリー・音楽番組・情報番組・ニュース・スポーツ・中継など他のジャンルとなんら変わることはない。撮影の技法やプロセスは違えども「何を見せるのか?何を伝えるのか?」という映像表現の目指すところは同じである。

●ショットの基礎要素

① ポジション
② サイズ
③ アングル
④ フレーミング(構図)
⑤ フォーカス(露出・絞り)
⑥ カメラワーク

これらを組み合わせて感動や感情を映像として伝える。
人物を撮る基本は、その人物の魅力を伝えるという事。
ドラマでは、シーンの意味合いを考え、表情を見せるのか? たたずまいを見せるのか? 伝えるべきものがあるので、撮るサイズはおのずと決まってくる。

●ドラマ撮影の醍醐味

私は、ドラマの現場といえども、稽古、カメラリハーサル、本番と段階を経て役者が役の人物になりきっていく様を見つめるドキュメンタリーだと捉えている。役者が台本の中の人物に感情と表情という息吹を吹き込み、その人物として生きる様を、常に傍らで見つめ、映像として克明に描けることがドラマ撮影の醍醐味である。緊張感と好奇心を持って芝居の進化というか化学反応を敏感に感じ取ると同時に、芝居の魅力を引き立てるカットを狙い、お芝居の醍醐味を視聴者に伝えるという強い気持ちで撮影に臨むことが大切である。