中部支部セミナー「4Kと防災放送」報告
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日 時 :2017年3月22日(水)13:00~18:00
会 場 :中京テレビ放送株式会社
館内見学:屋外施設、制作スタジオ・サブ、報道フロア・スタジオ・サブ
講 演 :館内ホールにて
参加者 :85名
講 師 :①中京テレビ放送(株) 中村鑑三氏
②中京テレビ放送(株) 北折政樹氏
ソニービジネスソリューション(株) 久保健一氏
③中京テレビ放送(株) 中村鑑三氏3月22日 (水)、中部支部春のセミナーを開催しました。セミナーのテーマは、ローカル局にとっては今後とても悩ましい対応を迫られると思われる“4K”と“防災放送”です。開催会場は昨年11月から運用を開始した中京テレビ放送の新社屋です。中京テレビは日本テレビ系列で東海地区の基幹局です。
なぜ中京テレビでセミナーを開催したのかというと、ひとつはローカルテレビ局が新社屋建設に際して、4K対応をどのように組み込んだのかにとても注目が集まっていたこと。もう一つは、2011年の東日本大震災以降に設計・建設された基幹局規模のテレビ局舎としては、東海地方では中京テレビが初めてであり、なおさら防災放送を継続するためには、震災時の様々な想定をもとに、相当練りこまれていると想像され、そこからの設計思想をお聞きしたいというのがふたつ目の理由です。
制作スタジオ・サブ
敷地内ガソリンスタンド
サイネージセミナーは新社屋の見学会と、ビル設計担当スタッフによる講演とに分けて行いました。見学会は、①敷地内のBCP対応設備、②制作スタジオ・サブ、③報道フロア、スタジオ・サブと3つのテーマに分けたエリアを午後1時から参加者を10名程度のグループに分け、それぞれ1時間余りかけて各所を見学しました。一部写真撮影禁止としながらも、それ以外は特に制限することなく参加者に披露されました。その後行われた講演ではテーマごとに設計担当者とメーカーのスタッフが講演を行うという形で進められ、全てが終了したのは午後6時です。5時間に及ぶとても規模の大きいセミナーでしたが、中身の濃い充実したセミナーが開催できたと思います。
◆以下に各テーマごとに講演の要旨を紹介します。
①新社屋のBCP対応
中京テレビの新ビルはJR名古屋駅の南、直線で1.1キロ余りに位置し、新たな開発地区とされる地区の中に建設されました。敷地面積2,150坪余り、本体建屋地上11階(地上60m)、電波塔最長部159mの免震、鉄骨構造です。地下に配した積層ゴムアイソレーターで建物を支え、オイルダンパーで地震エネルギーを吸収する設計です。地球と建物のズレに対し、地下のケーブルは余長を持って配線しました。
7日間分の非常発電として75,000㍑の重油タンク2基を地下に埋設しました。さらに1階敷地には社有車、中継車用に自営給油設備(ガソリンスタンド)を設置、ガソリンと軽油合わせて20,000㍑を常時確保燃料として設備しました。地震時には自動で車庫シャッターが開きます。
1階エントランスとホールを退避施設として開放することや、壁面ビジョンに緊急情報を表示することもBCP対策として盛り込まれています。
壁画ビジョン②制作スタジオ・サブシステム
コンセプトはラック室を共有した2つのサブ、1つは4K-Readyで構築しました。4K以外のシステムは基本的に同じ構成になっています。また、KVM-MTXを利用することにより番組運用にあわせてPCの操作場所の座席変更も可能としました。
Aサブは情報生放送系でSW卓の隣にVE卓を置きました。Bサブは制作収録系でSW卓の隣にLD卓を置きました。HDから4Kへのシステム変更は、SWとルータに常時接続されているのでSWの4K設定ファイルを読み込み、各4Kモニタの入力切替えだけで完了します。スイッチャーはSONY製XVS-8000を採用、4K対応のBスタジオはHDC-4300を6式導入し内3式はビルドアップ仕様。両サブ共にXDS-PD2000で収録・再生を行い、コーデックはMPEG HD422 50Mbps、将来的にXAVC-I HD 100Mbpsへの対応を可能としました。制御及びメタデータ管理はファイル管理システムにより行われ、編集システムとファイル転送が可能となっています。テロップ及び天気の送出機として朋栄製のVWSを3式、他に動画ファイルを1式導入しました。ID表示器は素材名以外に任意の名称を表示できます。マルチビューワとしてKaleido MX 32を導入しました。③報道取材の完全ファイル化
コンセプトは情報と映像のファイル化です。これに基づき先ず、これまで報道取材カメラとして運用してきたHDテープカメラをすべてSxSメモリーカメラに更新しました。回線収録、素材取り込み、メタデータ、編集、OAまでの素材全てをファイル化し、それを一元管理するシステムを構築しました。また報道フロア内の各所に取材予定、ENG取材先、中継、編集それぞれの作業進捗が一目でわかるようサイネージ(電子表示板)を設置しました。
素材プレビューはファイル取り込み後、約100台のPC端末から素材プレビューが可能です。さらに、社内システムのWi-Fiを利用し報道フロア以外でもプレビューができます。またスマホで記者アプリを活用することで、社内、出先記者との情報共有も容易にしました。編集室はオープン6室、個室9室、簡易7ブースとしました。アーカイブはLTOカートで構成しています。
こうして取材素材はもとより素材の管理データをはじめスタッフ個々の作業状況をすべてデータとして一元管理することで、ワークフロー上から『紙』がなくなり、効率的な情報共有が可能になりました。さらにそれらのデータは上位に位置するNNNニュース情報システムとリンクされ、ネットワーク上でも共有されています。
講師の中村氏(中部支部長)
久保氏(左)と北折氏◇セミナーを終えて
講演で触れる内容が具体的に理解できるよう、館内見学を講演の前に設定したことが良かったと思います。見学会は集合場所に一定人数(10名程度)が集まり次第、それを1グループとして順次スタートしました。6グループを想定したので、案内人も6人用意していただきました。これにより総勢60人余りの見学も混乱なく行うことができました。
講師3人、3時間半の講演でしたが、それぞれの割当て時間に過不足はなかったと思われます。新社屋は昨年11月から運用を開始しており、講師はこれまでに何度も説明を行っていることもあり、とてもわかりやすい講演となったようです。参加者も講演の内容に満足したと伝わっています。◇最後に
今回のセミナーは中京テレビ放送様のご協力なしでは成功しなかったと思います。なにより館内の重要なシステムや施設を案内していただけたことで、講演の進行と理解がとてもスムーズに行えました。またメーカー様にもご協力をいただき、参加者様が混乱されないよう様々な準備をしていただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
<中部支部(理事)岩井彰彦>