大阪支部「第6回 基礎技術セミナー」&「MPTE第58回 勉強会」開催報告
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■日時:2022年 10月 4日(火)
■場所:毎日放送 ちゃプラステージ
■参加人数 :120名 -
大阪支部では、放送業界に関心ある学生や経験1年~3年の業界関係者を対象にした「基礎技術セミナー」と業界関係者や新技術に興味ある人を対象にした「勉強会」を開催しました。ことしは感染対策に徹底した上で3年ぶりにリアルで開催しました。会場は事前の申し込みでほぼ満席になるなど盛況で、各講師とも熱のこもった分かりやすいプレゼンテーションが好評でした。
※動画、資料の配信は終了いたしました。
MPTE勉強会
①「多面的に広がるバーチャルプロダクションの可能性」
ソニーPCL株式会社 ビジュアルソリューションビジネス部 小林 大輔氏ソニーPCL株式会社 ビジネスプロモーション部マーケティング課 黒谷 瑞樹氏ハリウッドをはじめ、いま世界的に続々と採用されはじめている注目の撮影手法"バーチャルプロダクション"について、小林大輔氏と黒谷瑞樹氏にインパクトある映像を交えながら解説していただきました。"バーチャルプロダクション"は巨大な壁のようなLEDディスプレイに背景映像を表示し、演者や対象物をリアルタイムで撮影する手法です。特に今回紹介された"インカメラVFX"は、カメラの動きに合わせてディスプレイの背景も動く、つまりカメラの位置や動き、フォーカスや絞りなどのデータを元に「カメラ内で」背景映像を変化させながら撮影します。実際のスタジオ収録のメイキング映像を交えた分かりやすい説明に、満員の参加者は引きつけられました。現実空間で撮影することが難しいシーンも、映像でリアルな質感を表現でき、しかも時間やコスト効率化も目指せるなど映像の可能性を大きく広げる最新技術です。
具体例として、秘匿性が求められる新車の走行シーンの撮影や、時間的制約がある子役の作品、過酷な真夏の炎天下を再現した映像など、これまでの手法での常識を越える展開が紹介されました。
一方で、美術担当とのあらたな役割によるコミュニケーションの重要性などが生まれており、これまで以上に美術や照明と一緒に空間設計に取り組み、バーチャルとリアルの「境目」をシームレスにするなどチームが協力し合って解決する必要もあるそうです。AR・拡張現実と組み合わせた技術も紹介されるなど、多面的な展開により作品づくりの自由度が広がりそうです。今後の映像制作のあり方について考えさせられる示唆に富んだ解説でした。基礎技術セミナー
②「ドラマ撮影の変遷」~映像担当の視点から~
帆足 聡一郎氏(関西テレビ放送株式会社)長年、数々のテレビドラマの映像技術を担当した帆足氏が、ドラマ撮影の変遷を振り返りながら、撮影機材の変化や映像担当に求められる基礎知識をおさらいする内容で、若手技術者はもちろんベテラン層も懐かしさが思い起こされるなど幅広い年齢層に刺さる講義でした。基礎的な技術的知識を踏まえた上で「映像担当はドラマ全体のトーンや各シーンのイメージに合った色を監督に提案するのが大事でそれが一番難しい」などプロとして長年ドラマを支え続けた帆足氏ならではの丁寧な解説は説得力がありました。
また4K撮影の時代に入り、撮像素子の大型化が進み、広いダイナミックレンジと浅い被写界深度のボケ味を楽しむ絵作りが主流になってきた中で、より良い画質を引き出すには、撮像素子の特性を理解しNDフィルター、絞り、シャッター速度、ISO感度を適切に処理し光量をコントロールすることがポイントになると強調されていました。「ドラマ撮影はハードルが高いと思われがちだが、どちらかといえばイメージ力が重要なのでぜひ一度やってみてほしい」と若手技術者へのエールで解説を締めくくりました。基礎技術セミナー
③「Adobe Premiere Pro/Photoshop/Bridgeを使用したテロップ制作術と管理法を考える」
塩見 淳氏(株式会社ウエストワン)ひとつの番組で数百にもなる番組テロップを、いかに効率的に制作、管理していくかは、エディターにとって永遠の課題です。バラエティ番組をはじめ、さまざまな制作に関わり、"テロップが大好き"と自ら語る塩見氏にすぐに使える時短テクや裏技など、これまでの自身の経験に基づいた制作術について、実演を交えて熱く語っていただきました。
具体的には、Premiere Proで編集する際、間違いチェックや修正をしやすくするため、テロップはPNGに書き出さず、Photoshopで作成し読み込むことや、テロップの修正時検索しやすくするため、ファイル名をつける際にプラスαの関連ワードをつけるなど、ちょっとしたコツを初心者にも分かりやすく解説していただきました。さらに、無料でダウンロードできる拡張機能や、時短につながるPremiere Proのショートカット機能なども詳しくご紹介いただきました。
「誰でも動画を撮って、世に出せる時代なので、効率のいいインプット、アウトプットで楽しい作品づくりをしてほしいと思います」 ご紹介いただいたコツの積み重ねは単なる効率化だけでなく、エディターの仕事の楽しさ、そしてよりクリエイティブな作品につながるもので、お得情報満載の講義でした。基礎技術セミナー
④「リモートプロダクションの基礎と最新動向」
遠藤 譲氏(株式会社エキスプレス)眞鍋 鶴司氏(株式会社エキスプレス)コロナで急速に進んでいるリモートプロダクション(リモプロ)について、いま現場でどのような方法がとられているのかや、最新のクラウドサービスの動向などについて、遠藤氏と眞鍋氏の軽妙なトークで解説していただきました。中継番組制作において必要な人員や機材を「絞って」設置し、放送局の副調など既存の設備を流用して番組制作をするリモプロは、コスト削減や感染症対策にも有効であるため、ポストコロナでも欠かせない制作手法といえます。IP伝送、モバイル伝送、クラウド方式など、いま具体的にどのようなリモプロが行われているのか、またそれぞれのメリット、デメリットが詳しく解説されました。
現状の課題として、「回線コスト」と「遅延」の2つがあげられました。回線コストはNDI 5やSRTという新しいプロトコルも登場し、今後に期待が高まっています。また「遅延」は、圧縮技術などで解消されつつあるものの限界があるため、運営側が乗り越えるためにどうコミュニケーションをとるかなど、環境に順応していくことも大切という指摘がありました。会場からは、IPに関する知識はどの程度必要か、などの質問があるなど、今後欠かせない制作手法に参加者から大きな関心が寄せられました。3年ぶりのリアル開催にあたっては、参加者の安心安全に配慮し入場時の検温、消毒アルコールの準備、講義の合間にドアを開放して換気するなど対策を行い無事セミナーと勉強会を滞りなく行うことができました。講師のみなさまをはじめ、会場を提供していただきました毎日放送様、そして幹事のみなさまなど多くの方のご協力で開催することができました。参加者のみなさま含め、すべてのみなさまに深く感謝申し上げます。
リモート開催ではなかなか伝わりにくい講師のみなさんの熱意や参加者とのやりとりなどは、リアル開催ならではのよさを実感しました。
コロナは映画・テレビ業界に大きな変革をもたらしています。こうした会を今後も末永く継続することで、ひとりでも多くの人財が新しい技術に触れ、新たな価値を“大阪から”生み出すムーブメントにつながることを期待したいと思います。[ 加藤覚(日本放送協会・大阪)]