第13回映画の復元と保存に関するワークショップ「映像文化の未来 へ」報告
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京都支部では、2018年8月24日(金)~26日(日)の3日間、映画をはじめとする動的映像の復元と保存に関する最新情報や現状、今後の映像アーカイブの課題について共に考え、参加者同士のネットワークを広げ、次世代に活躍する人材育成を目的として、「第13回映画の復元と保存に関するワークショップ」を開催した。
テーマ:「映像文化の未来へ」
日 時:2018年8月24日(金)~26日(日)会 場:24日見学・実習(7会場より1つ選択)①京都文化博物館/②IMAGICAウェスト(現・IMAGICA Lab.)/③松竹撮影所・東映京都スタジオ・東映京都撮影所/④国立民族学博物館/ ⑤神戸映画資料館/⑥吉岡映像/⑦関西文化学術研究都市25-26日 講義京都文化博物館 フィルムシアター参加者: 総計163名個人会員入会:7名本部において創立70周年記念プロジェクトとして「アーカイブ」を取り上げられたことにも関連し、京都支部は、今年で13回目を迎えた「映画の復元と保存に関するワークショップ」の実行委員会メンバーとして参加開催しました。今までも京都支部の数名のメンバーは当ワークショップの企画・運営に携わってきましたが、京都支部が組織として正式に参加するのは初めての機会となりました。1日目の見学・実習は、IMAGICAウェスト(現・IMAGICA Lab.)、松竹撮影所、東映京都撮影所、吉岡映像が実習や施設見学会の会場となり参加者への指導や案内を実施しました。2日目からの講義では、妹尾京都支部長が開催の挨拶を行い、フィルムからデジタルへと移行する中でどういう形で映画を残していったらいいのか、残せるのか、映像の未来のために映像アーカイブが絶対必要であることに気がつき始め、また今やらないと失われてしまう危機感にかられていると自身のアーカイブに対する考えを述べるとともに、当ワークショップの目的である「映画の復元と保存に関する最新情報を共有し、今後の課題を見つけ、この問題の重要性や必要性を感じてくださる方々、博物館や資料館の学芸員、大学の先生や学生、映画やテレビ業界で働く方のみならず、本当に映画を愛する皆さんとのネットワークを作り、理想的なアーカイブの実現とそこに尽力してくれる人材の育成」を目指し、早い時期から努力と情熱を傾けて当ワークショップをやってこられた方々、特におもちゃ映画ミュージアム・大阪芸術大学の太田米男氏や、それに同調して全国から集まってくださった方々に敬意と感謝の意を表しました。開会挨拶 妹尾京都支部長(東映)椎原史隆氏(東映ラボ・テック)講演開催挨拶の後、基調講演「国立映画アーカイブの発足と展望」、京都府による「アーカイブ人材育成事業―映画フィルム復元のデジタル職人を京都から」に続き、京都支部の企画枠として東映ラボ・テックの椎原史隆氏による「日本の保存フィルムが危ない! ~劣化が進む保存フィルムの現状と今必要な事~」と題した講義を、「日本の保存フィルムの状況」「どのような保存が行われているか」「どのような保存を考えるべきか」「デジタルアーカイブの大切なこと」の4つのパートに分けて講演頂きました。※動画を視聴するには会員用のIDとパスワードが必要です。
「日本の保存フィルムの現況」では、まず、製作年が確認できる日本の映画の残存率が18%しかなく、既に多くの映画フィルムが消失しており、残っているフィルムの劣化が進んでいる状況を年代ごとにフィルムの構造を図解して解説して頂きました。「これまでどのように保存をしてきたのか」では、アナログ的な保存の手法について解説して頂きました。退色するカラーフィルムのリスクを避けるために、三色分解してネガに残す手法(映像を赤・緑・青の色情報を持ったそれぞれ別の白黒フィルム変換し、銀画像として白黒フィルムに記録する方法)が長期保存の有効な一つの手段として見直され活用された実例もありましたが費用がかかるデメリットもありました。マスターポジ、デュープネガを作成する手法がある一方で、オリジナルネガをスキャンして、赤、緑、青の情報を取り出して、フィルムレコーディングして戻す。また、ボーンデジタルの作品をレコーディングしてフィルムで残す手法にも使われているとのことでした。アナログ的な保存は、定期的にフィルムをチェックして痛んだ部分を補修し、巻き返して空気に触れるなど、人間の目で見て、人の手の感覚で作業するので、いままで培ってきた熟練の技が必要で、デジタル化が進んだ現在でも大切な作業と力説されました。また、ビネガーシンドロームの進行具合は熟練の技術で酢酸臭の程度と痛みの程度を判断してきたが、A-Dストリップス(フィルムの酸性劣化を色で測定することができる試験紙)を使用するようになり、ビネガーシンドロームの進行している状況を特定できるようになったということで、進行のレベルごとの対処方法も詳しく説明して頂きました。「これからどのような保存を考えるべきか」では、アナログ的保存からデジタル保存へ変更するべきとの主張をされました。
前提として、- アーカイブ条件可にある収蔵庫でオリジナルフィルムを保管することにより経年劣化を緩やかにする保存
- オリジナルフィルムの定期的なクリーニングと可能な限り複製を作成する(物理的変換による保存)
- 劣化した対象フィルムの痛んだ部分を修復する
という3つのアナログ的な工程を続けつつ、さらにデジタル保存を行っていくという考えを述べられました。デジタル保存は、ハードウエアとソフトウエアの絶え間ない進歩で再生できなくなるリスクがあるので、時間が経過してもデジタルデータを正確に再生する為、- マイグレーション(新たらしいメディアに定期的に保存する)
- データのバックアップ作業
- 地震、火災に備えデータを2本作成し、別の場所で保管する
ことを強調されました。デジタル保存の流れは、ネガ状態のチェック、破損の修復、つなぎ目の補強、クリーニング作業後画原版、音原版、字原版をそれぞれフィルムスキャニングしDPX連番ファイルやWAV、確認用の軽い動画データを作成することによって情報の共有化、可視化し、データをLTO(マイグレーションの必要はあるが現時点はLTO7で運用)に収録して、正テープ、副テープを離れた場所に保存する方法を提案されました。また、こうした考えをベースに東映ラボ・テックでのデジタル保存の現況の説明もして頂きました。特に2017年にキャプスタン駆動のScan Station(LASERGRAPHICS)を導入したことにより、ネガの劣化によって歪みや反りがあるフィルムも効率的にスキャンできるようになり、35mmから16mmまでフィルムより映像や音声を取り出す作業に掛かる時間が上映時間とほぼ同じから2倍くらいでスキャンできるようになったとのことでした。スキャナーでデジタルデータ化する際、今後使用するであろう将来のため、フィルムの持っている情報をあるがままにデータ化し未来に残すためにはフィルムの情報をあますとこなく表現できる4Kで行うことを推奨されました。
そして、- 記録フォーマットの統一
- メタデータの標準化
- 知的財産権に関する問題の解決
- 高度な保存システムの構築
- デジタル情報の長期保存とアクセスの維持に不可欠な多様な組織間協力の体制の構築
を行っていく必要を説かれました。「デジタルアーカイブの大切なこと」では、「1.どの作品を保存するのか→劣化が進んでいる作品を優先する」、「2.どう保存するのか→スキャンしてデジタルデータ化して保存する」、「3.何で保存するのか→2本のLTOを別の場所で保管を推奨」と今までのお話をまとめられ、「4.どのように活用するのか」については、東映ラボ・テックのスマL (Smart LTO System)というシステム(メタ情報を登録、閲覧用プレビューファイルを作成し、お客様はインターネットで必要な情報をパソコンで閲覧できるシステム)を紹介されました。最後に「すべての作品の保管ムリでも可能な限り残すことが大事であり、文化の継承はもちろん、10年後、20年後につながるコンテンツとしての可能性を残すことができるかどうかは、私たちの早急な判断に迫られているのではないでしょうか」と結ばれました。経年劣化によるフィルムの状態ビネガーシンドロームの酸性度と時間の相関図また、椎原氏の講義以外にも、京都支部として会場のロビーにブース出展して、「アーカイブ」座談会を収録した「映画テレビ技術 2017年10月号」や出版物や入会情報のチラシを配布し活動を紹介したことにより、7名に入会をして頂くこともできました。今後は京都支部としての活動を更に充実し、映像業界の方々との交流を行って参りたいと思います。協会PRコーナー参加者集合■その他の講義内容
8月25日(土)1.基調講演:「国立映画アーカイブの発足と今後の展望入江良郎氏(国立映画アーカイブ学芸課長)2.「京都府アーカイブ人材育成事業-映画フィルム復元のデジタル職人を京都から」須田建太朗氏(京都府商工労働観光部ものづくり振興課)森脇清隆氏(京都文化博物館)3.「日本の保存フィルムが危ない!―劣化が進む保存フィルムの現状と今必要な事―」 椎原史隆氏(東映ラボ・テック)4.「映画・映像のパブリック・ドメインについて」数藤雅彦氏(五常法律会計事務所)5.映画「まわる映写機めぐる人生」(110 分、監督 森田恵子氏)完成披露上映6.ライトニングトーク(前半)8 月26日(日)1.トークセッション「映像アーキビスト養成の現状共有(関西篇)」(日本映像アーキビストの会(仮称)呼びかけ人会)2.ライトニングトーク(後半)3.「ラボの最新修復技術の報告」(東京現像所、IMAGICA、IMAGICAウェスト)4.「地域の映像アーカイブの現状と課題」原田健一(新潟大学)、北村順生(立命館大学)5.「『京都ニュース』の保存と活用について」太田米男(京都映画芸術文化研究所、大阪芸術大学)6.実習報告会2日間にわたる講義は、大変盛況裡に終了した。ご協力、ご協賛頂いた各社に紙面を借りて御礼申し上げます。(三輪由美子/幹事・KCROP)<主 催>第13回「映画の復元と保存に関するワークショップ」実行委員会、京都映画芸術文化研究所(おもちゃ映画ミュージアム)、京都府京都文化博物館、プラネット映画資料図書館、神戸映画資料館、映画保存協会、日本映画テレビ技術協会京都支部<協 力>京都府、日本映像アーキビストの会(仮称)呼びかけ人会、IMAGICA、IMAGICAウェスト、東映京都撮影所、東映京都スタジオ、東映ラボ・テック、吉岡映像、松竹撮影所、東京現像所、五常法律会計事務所、京都クロスメディア推進戦略拠点(KCROP)、映像Sプロジェクト、けいはんな、記録映画保存センター、“みんなごと”のまちづくり推進事業、国立民族学博物館、国立映画アーカイブ<協 賛>足柄製作所、東京光音、グッド・ジョブ<事務局>京都映画芸術文化研究 おもちゃ映画ミュージアム内「映画の復元と保存に関するワークショップ」実行委員会事務局
(順不同敬称略)