大阪支部「第9回基礎技術セミナー」開催報告

■日時:2025年11月26日(水)
■場所:ABCホール
■参加人数 :120名

 

大阪支部では、経験1~3年程度の技術担当者や関心ある学生を対象に「基礎技術セミナー」を開催しています。今年は会場に120名の参加者を迎え、東北支部、北海道支部からはオンラインでの参加もありました。経験豊富な講師たちが若手にとって関心の高いテーマを取り上げ、参加者アンケートからは、「初心者でも分かりやすかった」「最新の制作現場の裏側の話がとても興味深い」「これからの作品作りに生かしたい」など好評が多数寄せられました。

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① ビデオエンジニアの今・昔
  (株)テーク・ワン 橋本渉氏 法月拓磨氏

シネマカメラの活況にあってビデオエンジニア(VE)にかかる期待は高まる一方です。1992年入社、撮像管カメラ時代にキャリアを開始し、ビデオカメラの進化とともに歩んできたVEの生き字引・橋本氏。コロナ禍中に入社し自宅待機を経験しながらも、今は現場を駆け巡る期待の若手・法月氏。近年変化の激しいVE業務の実態を知るお二人が、現代のVE事情を分かりやすく解説しました。
まず、橋本氏は実機を用いて映像調整の基本を解説。そして、近年ライブ会場などではテレビカメラとシネマカメラの併存が珍しくなく、成り立ちや構造が異なる両者の映像をいかになじませ、求める質感に融合させるかが現代のVEの腕の見せ所だと指摘しました。放送、ネット配信、ライブ会場で映す生映像など、コンテンツが多様化する中、現場ではグレーディングを前提にしたlog収録に対応しつつ、会場の生映像はLUTを当てて出す対応などを示しました。
若手の法月氏は、キャリア開始当初から1人で3台のコントローラーを操り2時間超のライブに臨むのが当たり前になっていると語りました。ライブ前にカメラマンと打合せ、カメラワークや意図を理解。ボケ味を生かすためアイリス値は開放気味で固定し明るさはゲインで調整、映像のキレを出すためシャッターを入れる、パフォーマンス中はフォーカス優先だが暗転時は演者を探すため明るくなど、さまざまな要望に応えるための必要な調整をセットリストに書き込んで臨むと明かしました。映像の最終調整を担う現代のVE業務は、かつての「映像監視」から進化し、表現を追い求めるチームの一員として深い関わりが求められることが両氏から伝えられました。

法月拓磨氏

橋本渉氏

リモート会場の東北支部・東北電子専門学校の参加者から、今後VEを目指す人へのエールが求められました。橋本氏からは「カメラからシステムまで幅広い知識が求められるVEは大変だが、ゆくゆくは何にでも応えられる人間になれる。広く浅く色んなことを吸収していってほしい」と温かいメッセージが送られました。

② ドラマの制作について~撮影担当の狙いや試み~
  NHK大阪放送局 岩崎亮氏

朝の連続テレビ小説「ばけばけ」の撮影チーフを務める岩崎氏。これまで、大河ドラマ「龍馬伝」でサブチーフ、朝ドラ「あまちゃん」など数々のドラマで撮影チーフを務めた経験を元に、機材選定から撮影現場の実際、そして「なぜドラマを撮るのか」という根源的な問いまで熱のこもった講演を行いました。
 岩崎氏は、会場のスクリーンに「ばけばけ」の映像を映しながら、ドラマで使用しているSony VENICEなどラージセンサーカメラで描く映像の狙いを解説しました。揺らぐろうそくの柔らかな明かりと闇、美しいボケ味を生かし心情を物語る視線誘導、フレアを生かした温かくももの悲しい心象描写など、ドラマの舞台である「神々の国の首都・松江」の空気感を醸し、芝居をエモーショナルにもり立てる映像の秘密が解き明かされました。

圧巻は、主人公と家族らが複雑な胸の内を吐露するおよそ8分のシーン。岩崎氏自身が最も「『ばけばけ』らしい」と評する場面でした。刻々と変化する人物の心情をつぶさに捉えた映像に会場全体が引き込まれました。岩崎氏が大切にするのは、芝居が「生まれる」という感覚でした。カット割り通りではない、テストとは異なる芝居が生まれることを期待して本番に臨むと言います。役者がのびのびと芝居できる状況を作り、撮影、音声、照明が主体的に判断して動くことで、そこに生まれる人間らしい本当の感情が捉えられるのだと語りました。
最後に岩崎氏は、なぜドラマを撮るのか、自身の思いを伝えました。東日本大震災から1年半の岩手県久慈市で始まった朝ドラ「あまちゃん」のロケ。セリフには、ニュースやドキュメンタリー番組で拾いきれない被災地の日常や人々の思いがあふれていたと言います。「それらをつなぎ、役者が紡いだドラマは、多くの視聴者層に届き、被災地への関心の広がりにつながった。ドラマには、社会的な役割を果たせるやりがい、現実の社会を生きる私たちをそっと後押ししてくれる力がある」と語りました。そして、若手技術者に向けて「日々の業務に自分なりの魅力を見つけて向きあってほしい」とエールを送りました。

③ 万博スタジオにおける
  Aximmetry + VIVE Marsを使用した
  簡易VRシステムの構築について
  関西テレビ放送(株)中道尚宏氏

現実の被写体にリアルタイムでCG背景を合成して撮影、制作するバーチャルプロダクション(VP)。自由度の高いクリエイティブな制作の実現に向け、各映像分野で勢いを増しています。中道氏は大阪・関西万博を機に現地サテライトスタジオにVPシステムを構築し、半年にわたり万博会場からの情報発信を支えました。VPの実態と課題、そして今後の展望を詳しく解説しました。
サテライトスタジオの空間に限りがある中(幅5m・奥行き8m)、中道氏は、現地の臨場感と関西万博のテーマに沿った未来感を両立するため、リアルとバーチャルのハイブリット方式を採用したと明かしました。正面は大きな窓越しに「大屋根リング」を望み、日々のリアルな天候や賑わいを見せ、両側面はVRで自由度の高い演出を行う狙いです。実際に放送した際の映像が会場に映し出され、リアルとバーチャルの融合に参加者も納得の様子でした。バーチャルスタジオの構築に「Aximmetry」、カメラポジションを検出するトラッキングシステムに「VIVE Mars」を採用した理由として、コストや拡張性への期待を挙げました。

一方で、課題についても率直な報告がありました。まず、「オクルージョン」(遮蔽:手前の物体が奥の物体を隠すことで奥行きが感じられること)について。バーチャルとリアル、それぞれの前後関係に応じて物体を表示したり隠したりできれば、より自然な表現となります。現在のシステムでは十分実現しきれず、研究途上であると語りました。また、トラッキングシステムについては、赤外線方式の「VIVE Mars」は低コストで可搬性も高い一方、より高い精度を求めるにはマーカー式など他方式の検討の必要性も指摘しました。
さらに、VPシステムの今後については、安定運用を支える予備システム構築などの環境整備、リアルとバーチャルのセットの混在が進む中で3DCGに精通した美術スタッフと技術スタッフの育成と融合、AIデザインの導入、バーチャルコンテンツのクラウド運用など新技術のさらなる発展を見据えた展望を示し、示唆に富む講演を締めくくりました。

④ 野球中継技術
  ~カメラ位置・スイッチングの実際、最新の取組み~
  (株)アイネックス 山本久氏
   朝日放送テレビ(株) 松岡俊樹氏
  (株)サンテレビジョン 福本有紀夫氏
  (株)エキスプレス 木村智氏 大瀧淳氏

2025年は阪神タイガースが史上最速でリーグ優勝を果たすなど、特に関西ではプロ野球中継が映し出す一投一打に視聴者が釘付けになりました。その野球中継に精通する各氏が球場のカメラ位置と役割、制作現場の最新の取り組みなどを詳しく紹介。さらに、スイッチングについては、「次の一手」をパネルディスカッション形式で語り合いました。

長年、野球中継に携わってきた山本氏と松岡氏は、高校野球とプロ野球の違いや共通点を解説しました。高校野球ではプロ野球の3倍近い15台のカメラを配置。アルプスや砂取りなど高校野球ならではのカメラも駆使し筋書きの無いドラマを描きます。「スポーツはライブが命。今、何が見たいか、視聴者の気持ちを考え、映像を切り替え過ぎず、しっかり見せる意識も大事」と極意を伝えました。

山本久氏

松岡俊樹氏


「試合開始から試合終了まで、完全生中継」を合言葉に阪神戦の中継を行うサンテレビの福本氏は、「スコアブックが書ける中継を」という哲学を語りました。打ったランナーはどこか、残塁のランナーはどこか、ワイルドピッチなのか、エラーなのか。視聴者に疑問を残さないよう球場の公式表示も見せつつ、一つ一つのプレーを早く丁寧に届けることが中継の基盤だと語りました。

東京オリンピックの国際映像制作など経験豊富なベテラン、木村氏・大瀧氏は、東北楽天ゴールデンイーグルスの球団映像におけるリモートプロダクションを紹介しました。仙台の球場と東京の制作拠点をVPN回線で結び、スイッチングやスロー、リプレイ、テロップ、スコア表示などを東京からリモート制御する一方、制作信号は現地で送出することで並列局や球場演出に即応するハイブリッド運用の実態を詳説しました。

木村智氏

大瀧淳氏

後半のパネルディスカッションでは、具体的な場面(ノーアウト、ランナー1塁・2塁、右中間へのタイムリーヒット)のカット割りについて、ホームインを撮影するカメラの違いや球場ごとのカメラ位置の違いなども踏まえ、突っ込んだ議論が行われました。一瞬も止まることのない試合展開の中、流れるようなスイッチングでストーリーを紡ぎ、感動の瞬間を届け続けている名人たち。最良の一手を求めて語り合う姿はさながら将棋の大判解説でした。会場の参加者にとっては、名人たちの脳内で起きていることをなぞり、自分なりの一手に知恵を絞る貴重な機会となりました。


10年ぶりのノーベル賞ダブル受賞に沸いた関西。さらに、大阪・関西万博の閉幕、憲政史上初の女性首相誕生、米の価格高騰、クマの出没。例年に増して慌ただしい秋でしたが、若手育成の場を作ろうと各社タイミングを調整してのセミナー開催となりました。講師のみなさまをはじめ、幹事社であり、会場も提供いただいた朝日放送テレビ様ならびに事務局のグラスバレー様など、多くの方々のご協力で開催することができました。すべてのみなさまに深く感謝申し上げます。
「AIエージェント元年」と呼ばれた2025年。AIは社会に浸透し、存在感を高めています。一方、数多のテクノロジーを駆使してコンテンツを生み出すのは生身の人間であり、届ける先もまた生身の人間です。だからこそ、人から基礎を学び、土台を作ることに意義があります。今後もこうした会を通じて関西の業界が一致団結し、未来を切り拓く人材を生み出し続けることを期待したいと思います。

[ 映画テレビ技術協会大阪支部 ]