第8回基礎技術セミナー報告
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日 時:2025年3月14日(金)13:30~17:30
開催場所:株式会社千代田ビデオ内テレビスタジオ
参加者:56名
【会場の様子】講 演
【講師の山下 真司 様】① 『テレビ番組制作におけるENGカメラ業務について』 (13:35~14:15)
講師:(株)日テレ・テクニカル・リソーシズ
制作技術センター 制作技術部 山下 真司 様冒頭ENGの言葉の意味や歴史、記録メディアの変遷、放送用/業務用/民生用のENGカメラの違いについて、また、スタジオカメラ/中継カメラ撮影に比べ、ENGカメラ撮影ではカメラマンが受け持つ役割がより多岐にわたることが説明された。
ENG機材使用の基礎として、安定した映像を撮る為の担ぎ方/歩き方、水平の合わせ方のコツ、レンズの焦点距離や絞り値による遠近感やボケ感の違いの解説があった。
撮影方法は番組のジャンルによって異なる。その具体例として、まずスポーツでのENG撮影について野球とゴルフの具体例が紹介され、基本の撮り方とともにカメラワークのコツも一部紹介された。また撮影がENGだけか、中継カメラの映像が他にあるのか、によっても撮るべき映像が異なることも解説された。次にバラエティ番組として旅番組の例が紹介され、編集を意識して撮影する必要性やインサート映像撮影の注意点、屋内外の撮影が混在する際の色調整の注意なども解説された。また特別な取材としてオリンピックの例にも触れられた。
最後に、ENG業務では撮影技術や機材の知識以外のスキルも必要であり、また時には過酷な環境にも耐えなければならないなど大変な部分もあるが、自分の撮影した映像が番組に採用され生き続けること、それが歴史的な映像であれば何十年にも渡って使用され続けることは大きな喜びであり、やりがいのある仕事であると締めくくった。【講師の白波 考大 様】② VEの仕事について (14:20~15:00)
講師:(株)フジテレビジョン 技術局 制作技術統括部
白波 考大 様VEの仕事は映像のトーンや効果を調整する【VIDEO】的な側面と、映像音声が通る流れを構築する【Engineer】的側面があると紹介された。
前提知識として色温度の説明とホワイトバランスによる白の映り方の違いが話され、その後カメラ調整項目であるブラックバランス、ホワイトバランス(WB)、ガンマバランス、ホワイトシェーディング、フレアバランス調整の説明があった。
WBを取る条件が異なると撮影される映像がどう変わるか、屋外撮影でWBを日向で取るか日陰で取るかによって映像がどう変わるかが実例で解説された。
映像の印象を左右する要素として、被写界深度の違いもあることが説明された。
映像の品質を決める5つの要素、解像度/ビット深度/フレームレート/色域/輝度についての解説があった。
番組での運用例として音楽番組「FNS歌謡祭2024夏」の制作が紹介された。当番組制作の中でのVE関連の仕事とスタジオシステムの紹介のあと、番組の映像表現を向上させるためにどんな工夫をしたか、如何に綺麗に演者を見せようとしたか、生放送の中でリアルタイムに高品質な映像表現を追求しVEとしてどう演出に貢献したか、高度なカメラトーンコントロール技術を説明し、番組制作に情熱を持って取り組む熱い思いが語られた。【講師の森山 顕矩 様】③ 「伝送」と「配信」 (15:05~15:45)
講師:(株)テレビ朝日 技術局 技術運用センター
森山 顕矩 様
最初に、番組制作の大まかなフロー図をもとに、放送と伝送、放送と配信の関係が説明された。
伝送の種類はいろいろあるが、その一部としてFPU、SNG、モバイル回線ボンディング、IP回線についてそれぞれのメリットとデメリットが解説された。
IP伝送と配信は基本的には別の業務ではあるが、技術スタッフの行う配信業務は、例えばエンコーダの選定やインターネット回線の用意などIP伝送と同様の技術を用いる部分もある。
配信の流れとYouTube配信例の説明の後、手元のPCからYouTubeへの配信が簡単にできることがデモされた。
伝送方法を考えるにあたり、番組ジャンル/中継場所/リスクへの対処(バックアップ回線など)を考慮する必要があることが紹介され、震災特番/大晦日中継/アジアカップ中継の事例においてどのように伝送手段を組み立てたかが紹介された。
配信をプランニングするに当たっても伝送と同じく、配信ジャンルやプラットフォーム/配信場所/リスクへの対処(バックアップ回線など)を考慮する必要があることが説明され、ビジネスセミナー配信/格闘技有料配信/駅伝ライブ配信の事例でのシステム構成が紹介された。
伝送手法の課題と変化として、リモートプロダクションの活用による番組制作効率化、クラウドサービスを用いた安価で安定した伝送経路の確保、可搬型衛星通信サービスの活用が紹介された。
伝送・配信における今後の注意点として、セキュリティー対策をしっかり行うこと、放送と配信は似ていても違うことを意識する必要があることが述べられた。
最後に今後ますます進むIP化に対しIPの知識は不可欠となるので、常に「学び」「トライする」意識を持って取り組むことが重要と締めくくった。【講師の中村 全希 様】④ テレビ音声の仕事について (16:00~16:40)
講師:(株)TBSテレビ メディアテクノロジー局
制作技術統括部
中村 全希 様「テレビ音声」の仕事には、音をとる(収音)、調整する(MIX)、聞かせる(PA)、完パケをつくる(トラックダウン、MA)、インカム/送り返し/マイナスワンといった「音に関わる素材、機材の管理」など多岐にわたるとの説明があった。
まずはマイクの世界について、音声機器レベルの単位dBuの説明と、ラインレベルとマイクレベルの違いについて説明があった。
次にマイクの種類とそれぞれに適する使用方法など、例を挙げながら紹介された。街頭インタビューでマイクの種類と話者の距離によって、音がどう変わるかが解るデモ映像や、マイクの指向性による音の録れ方の違いのデモがあった。
テレビミキサーの業務については、視聴者や番組制作に関わる番組運行者全てに「当たり前に聞こえる音」を届けることが仕事であると紹介された。
音を整音して完パケを作る(トラックダウン、MA)について、収録と生放送の違いの説明の後、収録番組においてはトラックダウンによって放送に適したより聴きやすい状態にできることや、MA作業によって番組がより一層魅力的になることを、作業前後の素材を試聴して比較した。
テレビ音声の現場紹介として、大規模音楽番組「日本レコード大賞」を取り上げ、大量のマイクの回し表、中継車のミキサールームの様子、音声リモートプロダクション実施の紹介があった。
テレビ音声の宿命について、映画との違いを例に挙げ、厳しい環境下で聞こえる音を作る大切さが説明された。また、テレビ音声で感動につなげる為に、ラウドネスの規定に準拠しながら前後のつながりに違和感のないMIX作りを意識する必要が説明された。
最後に音声さんの心得として「謙虚であること、信頼すること、可能性を信じる事、正解を勉強すること」が大切であると述べられた。【講師の水野 暁夫 様】【実演の様子】⑤ 照明技術の基礎について (16:45~17:25)
講師:(株)テレビ東京 テック運営局
コンテンツ技術センター
水野 暁夫 様ものの見え方について、網膜にはL錐体とM錐体とS錐体があり受け取った視覚情報は脳で色、動き、形、奥行きが別々に処理され、最終的に統合されると説明があった。
また、形を見るには輝度情報が重要なことが紹介された。
実際に照明をモデルに当てながら、ライティングの基本である3点照明(キーライト/フィルライト/バックライト)の解説や、光の質(硬い光と柔らかい光)による印象の違い、劇的に見える光の当て方などが紹介された。
スモーク撮影の際、照明とカメラの位置により見え方が異なることが注意点として示された。また、実際にテレ東音楽祭でのスモーク撮影の事例も紹介された。
・次に黒体放射の説明があり、キーワードとして色温度が挙げられ、LEDは同じ色温度でも色偏差にばらつきがあることが示された。
更に、キーワードとして平均演色評価数Raや色忠実度指数Rfが挙げられ、Rfについては99枚のテスト色票の色度を計算し、色の見えの差から色忠実度指数を算出する方法について説明された。
最後にVirtual Production Lightingについてデモ映像を見ながらVPにより適した照明機材MIMIK120が紹介された。そして今月末放送予定のスペシャルドラマの中で、登場人物が花火を見るシーンでこの機材を効果的に使った事例が紹介された。