第9回基礎技術セミナー報告

日 時:2026年2月17日(火)13:30~17:30

開催場所:株式会社千代田ビデオ内テレビスタジオ

参加者:45名

協 力:株式会社千代田ビデオ

 

講 演

① ENGカメラマンに求められる能力
 (13:35~14:15)
 講師:(株)日テレ・テクニカル・リソーシズ
    制作技術センター 制作技術部 米澤 嘉浩 様

ENG(Electronic News Gathering)の語源や歴史に触れつつ、テレビ報道の現場で培われてきた撮影手法が、近年の機材進化や伝送手段の多様化によって大きく広がっていることが示された。かつてはニュース取材が中心だったENGカメラマンの業務は、現在では報道にとどまらず、バラエティ番組やスポーツ中継、オンライン配信、さらにはドラマ制作にまで及び、ジャンルごとに異なる要件に応じた柔軟な対応力が求められている。こうした環境の変化により、ENGカメラマンには特定分野に特化するだけでなく、幅広い現場に対応できるオールラウンダー性が不可欠となっている。
カメラワークにおいては、時間尺や編集点を意識した撮影、状況を補足するインサートの押さえ方、視聴者を飽きさせないためのバリエーション確保など、実践的なノウハウの重要性が改めて強調された。また、現場で求められる資質として、責任感・俊敏性・直感力・コミュニケーション力・想像力の五つが挙げられ、撮影技術だけではなく総合的な人間力が職能を支えていることが示された。
さらに、AIによる自動撮影や自動編集の技術が急速に進展し、ワンマンオペレーションが増える未来が予想される一方で、AIでは代替できない感性や判断力、経験に基づく技術を磨くことで、ENGカメラマンとしての価値は今後も揺らぐことはないと述べられた。

 

② VEのお仕事~システムと表現の交差点~
 (14:20~15:00)
 講師:(株)フジテレビジョン テックアートデザイン局
    制作技術統括部 白波 考大 様

VE(ビデオエンジニア)は、映像技術の専門家として番組制作における映像表現とシステム構築の双方を担う重要な職種である。担当領域はスタジオ番組から大型スポーツ中継まで多岐にわたり、「スタジオVE」と「中継VE」に大別される。業務内容は、カメラ調整や映像トーンの管理、信号系統の設計・構築、収録や生放送における最終的な映像監視など、放送品質を左右する責任の重い作業が中心となる。特にカメラ調整では、色温度・ホワイトバランス・ブラックバランス・ガンマ・シェーディングなど複数の工程を丁寧に積み重ね、複数台のカメラの色味を統一し、照明環境に最適化した映像を作り上げる高度な技術が求められる。
さらに近年は、LOG撮影やLUTを活用した映像表現にも対応する必要があり、FNS歌謡祭の事例では、監督・照明・美術との綿密なイメージ共有から、カメラ構成の設計、システム構築に至るまで幅広い準備が行われた。楽曲演出として、自作LUTを用いて夕景の雰囲気を引き出す映像表現を実現し、VEの創造性と技術力が大きく寄与した例が示された。VEに求められるのは、放送事故を防ぐための高い技術力と綿密な準備、他セクションへの深い配慮、そして多様な映像を見て磨かれるセンスである。

 

③ テレビ音声の仕事について
 (16:00~16:40)
 講師:(株)TBSテレビ メディアテクノロジー局
 兼 TBSアクト スタジオ本部スタジオ音声部現職出向
    見上 純一 様

本講演では、テレビ音声の仕事がどれほど多岐にわたり、番組制作の根幹を支えているかが多角的に紹介された。テレビ音声の業務は大きく「収音」「MIX」「PA」「トラックダウン・MA」「インカムや送り返しなどの機材管理」に分類され、現場の状況に応じて役割が細かく分かれることが説明された。まず音声の基礎として、dBuの概念やラインレベルとマイクレベルの違いが整理され、続いてマイクの種類や指向性、音量・周波数特性に応じた使い分けが、デモ映像を交えて具体的に示された。
テレビミキサーの役割は、視聴者が意識せず“当たり前に聞こえる音”を届けることであり、収録番組ではトラックダウンやMAによって放送に適した音質へと丁寧に仕上げられる。現場例として「日本レコード大賞」が取り上げられ、膨大なマイク回線の管理、中継車でのリアルタイムMIX、さらにはリモートプロダクションの活用など、大規模番組ならではの高度なオペレーションが紹介された。
また、映画と異なり、家庭のテレビやスマートフォンなど厳しい視聴環境でも明瞭に聞こえる音を作る必要がある点、ラウドネス規定を守りつつ違和感のない音のつながりを作る重要性も強調された。最後に、音声技術者に求められる姿勢として「謙虚さ・信頼・可能性を信じること・正解を学び続けること」が示され、技術と人間性の両面が不可欠であるとまとめられた。

 

④ 「伝送」と「配信」
 (16:00~16:40)
   講師:(株)テレビ朝日 技術局 技術運用センター
      兼Abema TV 現職出向
      兼(株)サイバーエージェント現職出向
      高橋 亮太 様

本講演では、番組制作における「伝送」と「配信」について、その基礎から実務までが体系的に整理されて説明された。まず、制作フローを踏まえて放送と伝送、放送と配信の関係が説明され、FPU、SNG、モバイル回線ボンディング、IP回線といった主要な伝送手段の特徴や利点・欠点が比較された。また、IP伝送と配信は別業務だが、エンコーダ選定や回線準備など共通する技術要素が多い点も説明された。
伝送方法の選定においては、番組ジャンルや中継場所、想定されるリスクを総合的に判断する必要があり、震災特番、大晦日中継、アジアカップ中継など、実際の事例を通じて具体的な判断プロセスが紹介された。配信においても同様に、ジャンルやプラットフォーム、会場環境、バックアップ回線の有無を踏まえた設計が不可欠であり、ビジネスセミナー、格闘技イベント、駅伝配信などの構成例が示された。
さらに、リモートプロダクションやクラウド伝送、可搬型衛星通信といった新たな技術動向も取り上げられ、今後の制作現場ではセキュリティ対策とIP技術の習得がますます重要になるとまとめられた。

 

⑤ 照明技術の基礎と最新動向
 (16:45~17:25)
   講師:(株)テレビ東京 テック運営局
      コンテンツ技術センター
      水野 暁夫 様

韓国の放送機器展「KOBA2025」では、「AIによる創造性の強化」をテーマに、AIが制作現場の表現力と融合し、新たな視聴体験を生み出す最新動向が紹介された。照明分野においてもAIによる自動制御システムなどが大きな注目を集めていたことが報告された。
また、日韓合同トークショーの開催をはじめ、両国の技術交流や制作環境等について解説があった。本セミナーでは韓国の大規模バーチャルプロダクションスタジオの事例が示され、実写(リアル)とCGを違和感なく自然につなぐうえで照明がいかに重要であるかに焦点が絞られた。
実例としてテレビ東京の開局60周年特別企画ドラマにおける花火シーンの制作過程が紹介され、テストから収録、完成映像に至るステップや、専用照明「MIMIK120」の活用法が取り上げられた。
さらに、光の方向性と影の整合性を保つライティングの基本、スモーク使用時の見え方の違い、ミラノ・コルティナ五輪スタジオの照明例など、実践的な知見が共有された。
加えて、照明に関する基礎理論も幅広く解説された。人間の視覚は、3種類の錐体で受け取った情報を脳内で「色・動き・形・奥行き」に分けて処理し、それらを統合して認識をつくる。
中でも特に形の認識には輝度情報が重要であることが示された。
また、人間にはカメラとは異なり、環境に応じて色の見え方が変化する「色順応」という機能があり、実際の体験を通して解説された。
さらに、黒体放射と色温度、相関色温度と色偏差、演色性評価指数の進化も紹介された。LED照明の普及に伴い、従来のRa(平均演色評価数)から、より忠実性を示すRf(色忠実度指数)へと評価指標が発展していることなどが詳しく説明された。